第十話






「ルーク、ティア、お願いがあるの・・・」



ユリアロードから外殻大地へと戻った私たち。
そこからすぐにセントビナーへと向かおうとする二人を、私は引き止めた。
今しかない・・・と思ったのだ。



「・・・?どうしたんだよ。」
「願い・・?」



突然の言葉に、二人は不思議そうな顔をしていた。



「ついてきて欲しいところがあるの・・」



先を急ぎたいだろうに、それでも私の真剣な表情からか二人はただ黙ってうなずいてくれた。
今は説明もできなくて、ただついてきて欲しいとしかいえなくて。
それでも、ルークもティアも私を信じてついてきてくれた。










***





「こんなところがあったなんて・・・」



アラミス湧水洞には隠し通路があった。
今はしか知らないその道・・さすがのティアも驚きを隠せなかった。



「あれっ?行き止まりじゃないか?」



ふと前を見たルークが、前方に大きな壁を見つけた。
模様こそ扉のようであるが、どこにもとってがなかった。
なにより、周りの壁と完璧に同化してしまっていたのだ。
ただ、壁に模様が描かれているだけ。
ルークにも、ティアにも、そのようにしか見えなかった。
は何も言わず、ずっとその腕に抱いていたぬいぐるみを軽く壁に触れさせた。


ポウ・・・・


壁が、ぬいぐるみが、自身が、光に包まれた。



「シルフィニアこくだいいちおうじょ
「!!!」


カッ!!


目を開けていられないほどの光が、壁・・・否壁のように思えていた扉からあふれ出し、ゆっくりと入り口が開かれた。








中に入ると、そこには一人の女性がいた。
ふわふわの豪華なベットに寝ているその人は、生きているのかさえ不安になるほど青白い顔をしていた。
どこか見覚えのあるような気がしたけれど、それが誰だったかは思い出せなかった。



「ここは・・・?!」



ルークが女性について考え込んでいると、ティアが驚きの声を上げた。
彼女は部屋の壁を驚愕の表情でキョロキョロと見回していた。
俺には何をそこまで驚くのかというのが分からなくて、どうしたんだ?ととりあえず聞いておくことにした。



「この結晶・・・音素の塊だわ。」



彼女が指差した先には、壁に埋め込まれた結晶があった。
中央にあるベッドに気をとられて目に入らなかったが、周りをよく見回してみればそれはあちこちに存在していた。
赤、青、黄・・・さまざまな色の結晶が、部屋中に埋め込まれていた。
これらが全て音素の凝縮した姿なのだとしたら・・・それは確かにすごいことだ。



「第一音素・・第二音素・・・これは第五音素だわ・・一箇所に目に見えるほどの音素がこれほどまでに集まるなんて・・・」



一種類だけならともかく、これほどの音素が混在しているなんて、普通ではありえなかった。
しかも目で見ることが出来るほど高密度なものなんて、そうそうお目にかかれるものではないというのに。
だけど、それは確かに自分の目の前に存在していて。
ただ驚くしかなかった。



「ティア、これにふぉにむをこめてちょうだい」



黙り込んでいたが差し出したのは、あのぬいぐるみだった。
ずっと抱きしめていたそれを渡されて、ティアは戸惑っていた。
だけど、お願いと頼まれたのだから、と、首をかしげながらも音素をこめ始めた。



ポウ・・・


淡い光がぬいぐるみを包み込んだ。
それは次第に凝縮されて、円形に集まった。



「これは・・・?」
はそんなティアの問いには答えず、俺のほうへと向き直った。



「ルークにはこれをこわしてほしいの」



女性が眠っているベットの柱を指差していった。
そこにはそれぞれ一つずつ、計四つの譜業が取り付けられていた。
それを壊せ、とのことだったので、俺はその指示通りにそれに剣を向けた。


ガキッ・・・ガキッ・・・


頑丈そうに見えたそれは予想よりももろく、力をこめれば比較的簡単に壊すことが出来た。


パリンッ・・・


四つの譜業全てを壊した直後、軽い音を立てて目に見えない何かが壊れた。
それと同時に、ティアの目の前をふよふよと浮いていたあの光が、ベットにいる女性の方へと近づいてふっと消えていった。



「うわ!消えた・・・?!どうなってんだよ!?」



光ったと思ったら消えて・・もう何がんだかわからねぇ!!



、説明し・・・!?」





ティアの言葉は最後まで続かなかった。
に事情を聞こうと彼女の方を振り返ると、彼女の体はうっすらとしていて、向こう側の壁が透けて見えていた。


今にも消えてしまいそうなその姿が見えたのだ。




?!」



何が起こったのか、俺たちにはさっぱりわからなかった。
ただ、半透明になっていたがそのまま消えてしまうのを見ていることしかできなかった。













消える間際に、彼女の口が“だいじょうぶ”と動いたように見えた。