目が覚めて最初に見えたのは、私の涙をぬぐってくれた人ではありませんでした。
第十二話
突然の別れ・・・・。俺たちには何が起こったのかさえわからなかった。
が立っていた場所に近づいてみるけれど、そこには何もなかった。
ぐるりと四方を見渡して部屋中を駆け回って探してみたけれど、彼女の姿を見つけることはできなかった。
「、どうしちまったんだよ・・・・」
ポツリとつぶやいた俺の声は、予想外によく響いた。
さして広くもないこの空間、しかも音をたてるのは俺とティアだけなのだ。
小さな音でもとても大きく聞こえてしまうのは仕方がないことなのだろう。
「・・・」
ギュッと何かを抱きしめながらつぶやくティアに、いつものような強さは無かった。
悲しげな色をうつした瞳が、微かに揺れているように俺には見えた。
彼女が抱きしめていたのはの残したぬいぐるみ。
結局彼女はティアに預けたままいなくなってしまったのだから、それは当然ティアの手元に残っていたのだ。
持ち主のいなくなったぬいぐるみ。
それだけがが確かにここに存在していたことを証明するものだった。
それがなければ、俺たちはきっと夢でも見ていたんだろうと思ったことだろう。
今だって、そう思ってしまいそうになるくらいなのだから・・・・
だけど、あのぬいぐるみと、俺たちの記憶と、この悲しさが
という幻のような少女を現実の少女へと変えていた。
「んっ・・・・・」
その声が俺たちの思考を現実へと戻した。
女性の声だった。
だけどそれはティアのものではなかった。
「・・・?!」
俺よりも先に声の発生源を見つけたらしいティアは、ハッと息を呑んだ。
俺はゆっくりと彼女の視線の先をたどった。
部屋の中央・・・そこにはあのベットがあった。
俺が譜業を壊したあれだ。
そこに眠っていた女性・・・今までピクリとも動かなかった彼女が、ゆっくりと起き上がっていた。
彼女はしばらく目をぱちぱちと瞬きさせて、それから部屋の中をぐるりと見回した。
ベット、天井、壁、結晶・・・・
まるで何かを探しているかのように。
誰かを探しているかのように彼女は部屋の隅々まで目を光らせていた。
この部屋にあるものを一通り見た後、その目を俺たちへと向けた。
あっ・・・
俺たちは彼女を凝視していて、彼女は俺たちのほうを見て。
当然その視線はぶつかり合った。
初めて見たその瞳は、吸い込まれてしまいそうなくらい綺麗な青だった。
まるであの大空のようなスカイブルー。
その髪もまた、空を彷彿とさせる青だった。
どことなく見たことのあるその姿。
こうして動き出すと、ますますそんな思いが湧いてくる。
だけど、それが誰だったかはやっぱり思い出せなかった。
「・・・・はいないのね・・・・・・・・・・ルーク・・・ティア・・・・・?」
ポツリと、まるでつぶやかれるかのように言われたその言葉は、
前半部分こそ聞き取れなかったものの、後半部分は確かに俺たちの耳へと届いた。
それは彼女が知るはずのない俺たちの名前だった。
「あなたは・・・?」
ティアの戸惑いを含んだその声が部屋中に響き渡ると女性は少しだけ悲しそうな顔をした。
今にも消えてしまいそうなその表情が俺の中で重なった。
そんなはずはない。
だって彼女はあんなにも幼かったのだから・・。
そう一緒のはずがないのに。
不思議とぴったりとその面影が重なったのだ。
そのスカイブルーの髪と瞳も、どこか悲しそうな表情も、
時折見せたのそれと良く似ていた。
「・・・?」
彼女はうれしそうに微笑んだ。
目が覚めて最初に見えたのは、私の涙をぬぐってくれた人ではありませんでした。
だけど、彼らはとっても優しくて温かい人たちでした。
