「守れ聖なる息吹よ Wind of the protection」
聞き覚えのない誰かの声が戦場に響いた。
第二話
「でね、それからずーっとトクナガとは一緒なんだよ。ちゃんは?やっぱりもらってからずっと持ち歩いてるの?」
先ほどまでトクナガの誕生秘話等をつらつらと話していたアニスは、今度はのテディベアについてたずねた。
それにはコクリと頷く。
それを見てアニスは「だよね〜」といってと顔を見合わせて笑った。
ちょっと前までのぴりぴりとした空気が嘘のようだった。
と出会う前までは、些細なことでも言い合いになったりすることが多々あった。
ともに旅をしてはいるものの、それぞれが良くも悪くも個性的過ぎて、あまり仲が良いとはいえなかった。
表面の薄皮一枚で何とかまとまっているような状況だったのである。
それが、一人の少女の存在で少しだけ変わってきている。
なんだかんだといいつつも根は女子供に優しい男ルーク。
一応に気を使ってか、いつもよりもうぜーとかだりーとかそういう言葉が少ない。
わがままもほとんどいっていなかった。
毎回彼の言動に不快な思いをしている一同としては、それがないのだから特に不機嫌になる理由もない。
結果、比較的なごやかに旅路を歩んでいるのである。
一番彼女の影響を受けたのはアニスだろう。
年が一番近いからだろうか、アニスは積極的ににかまっていた。
今までパーティーのなかで一番年下だった彼女は、結局なんだかんだと子供扱いされがちだった。
けれどの出現によりそれは緩和されていて、もともとあったお姉さん気質をバリバリ発揮しているのである。
しっかりしているアニスは、きちんと気遣いも心得ている。
会話といってもそのほとんどをアニスがしゃべりっぱなしで、問いかけなども頷いたりするだけで答えられるものばかりだった。
「それでね、その時・・・」
不自然に言葉が止まって、警戒の態勢とったアニス。
もちろん他のメンバーもおのおのの武器を構えていた。
前方には魔物の姿。
・・・戦闘が始まるのだ。
「ちゃんはイオン様とここにいてね?イオン様は彼女をよろしくお願いします。」
我先にと魔物に向かっていった前衛のメンバーの姿はあっという間に離れていった。
それを見届けると後方支援のティアがとイオンに声をかけ、二人が頷くのを見届けてから譜歌を歌い始めた。
攻撃次々と放っていくが、どうやら今回の敵は少々強いようだ。
なかなか思うようにきまらず、逆にこちらの体力が削られていく。
「くそっ!全然効いてねぇ!」
「くっ・・詠唱中は守ってください!!」
詠唱途中の無防備なときに攻撃されてジェイドが怒鳴りつけるが、いかんせん敵の数が多すぎる。
前衛のメンバーだけでは敵の気をひきつけておけず、詠唱がままならなかった。
そのせいで譜術での攻撃がほとんどできず、物理攻撃主体となってしまっているのだ。
硬い体で守られた魔物に物理攻撃はたいした効果を発揮してくれず、かなり危うい状況に陥っていた。
「きゃっ・・」
一体の魔物が弓を構えていたナタリアにぶつかってきて、彼女は武器を手放してしまった。
すぐに拾おうとするがそれより早く魔物の攻撃が向かってきている。
「ナタリア!!」
一番足の速いガイが駆けていくが、いかんせん距離が遠すぎた。
彼の俊足でも間に合いそうにない。
ティアがナイフを投げようとするが、敵とナタリアの距離が近すぎて下手をすればナタリアに当たってしまいかねない。
「――っ・・・」
衝撃を覚悟して思わずナタリアは眼をつぶった。
「守れ聖なる息吹よ Wind of the protection」
聞き覚えのない誰かの声が戦場に響いた。
それと同時にナタリアの周りに風の防壁ができ、それが魔物の攻撃から彼女を守っていた。
「これは・・・・?」
「ボーっとしない!今は魔物に集中してください」
思わず止まってしまった動きだったが、いち早くわれをとりもどしたジェイドが声を張り上げた。
幸いなことに、今の出来事は相当魔物にも衝撃的だったようで、敵の動きに先ほどまでのキレはなかった。
そこをうまくついて術技を連携させ、一体ずつ確実に倒していく。
「・・・?あなたは・・・」
戦場から離れていたイオンとはさきほどまではただじっと彼等が戦う様子を見ていた。
けれど今はイオンが驚いた表情でを見つめている。。
これは一体どういうことだろうか。
そんな疑問がぐるぐると頭をめぐるイオン。
そんな彼にはただにっこりと微笑むだけだった。
彼の疑問が解決されるのはもう少し後。
戦闘を終えて、ぼろぼろの状況で帰ってくる彼等を笑顔で迎え入れてからのことになるのだった。
