「先ほどのは一体・・?」






第三話







戻ってきた一同が、最初に気にしたのはやはりあのこと。
譜術とも違うその技は、一体誰が放ったものだったのだろうか。
特にそれによって助けられたナタリアは一番気にしていた。



「周りには俺たちしかいなかったしなぁ・・一体誰が?」



あの場にはこのメンバーと魔物だけ。
まさか魔物がナタリアを助けるなどありえないのだから、この中の誰かの仕業なのだろう。



「ティア・・じゃないよなぁ。ジェイドってことはありえねぇし。」



聞こえたのは女の声で、ジェイドのわけがない。
かといってティアの声というわけでもなかったはずだ。
それを裏付けるかのようにティアは首を横に振った。



「私ではないわ・・。アニスでもないのでしょう?」
「違うよー。私そんな余裕なかったんだもん」



自分のことが手一杯で、とても仲間をかばっていられる余裕はなかった。
目の前の敵を倒す、それだけをやるのに必死だったのだ。



「ふむ。ではそろそろ正解を教えていただきましょうかねぇ」



頭を抱えて悩みだす彼等を尻目に、ジェイドがに向き合った。
笑みを浮かべていはいるが、目はまったく笑っていない。
そんな表情でを見据えたのである。



「「「えっ・・?」」」



なぜに問いかけるのか。
それがわからない彼らはジェイドを問い詰めようかと思ったが、それはできなかった。
彼のオーラに圧倒されて、ただじっと見守ることしかできなかった。




「先ほどナタリアを助けたのは・・・あなたですよね?」
「んなわけねーだろ!!こいつしゃべれねぇじゃん」



思わず突っ込んでしまったルークは冷たい一瞥をくらって撃沈した。
お前は黙ってろ。
そんな意味がたっぷり含まれたそれに、ルーク以外のメンバーも口をきっちりふさいだ。



「・・うん・・。わたし・だよ。」
「「「!!!??」」」
「やっぱりだったんですね・・。」



途切れ途切れではあったが、は確かに言葉を発した。
驚いた一同だったが、イオンとジェイドだけは違った。
戦闘中、ずっと隣にいた彼は、が声を発するのを確かに聞いたのである。



ちゃんはしゃべれないのではなかったのですの?!」
「しゃべれないわけじゃない・・よ。だけど・・ちからつかうときだけ・・」



ナタリアの問いにゆっくりではあったけれど答えたは、とても申し訳なさそうな表情をしていた。
わけがあるとはいえ、しゃべれるのにできないとしていた。
彼等をだましていたのだから、肩身が狭かった。



「力・・?それはさっきのみたいなの?」
「うん・・。わたし、ことだまし・・だから。」



ことだまし・・?とクエスチョンマークを飛ばしまくる者達のなかで、イオンとジェイドは納得したような表情を見せた。



「言霊の力は、強い第7音素を言の葉にのせて発します。そうすることで譜術や譜歌よりもずっと短時間で発動できるんです。
言霊士は少ないですから、皆さんがご存じなくてもおかしくはないとおもいますよ。」



そうやって説明したジェイドの言葉で、ほとんどのものは理解した。
そこに、イオンの哀しげな声が続く。



「ただ・・言霊士の発する言葉には、常に微量ながら第七音素がまじってしまうんです。
強い力を持つものは、日常会話でさえ何らかの力を発揮してしまうことも少なくありません。」

「えぇ〜?!それじゃぁ『火をつけろー』とか言ったら本当に火がついちゃったりするんですか?」
「はい・・ですから彼等は言葉を封じられることが多いんです。下手をすれば大惨事になりかねませんから・・」



何気なく言った一言が、大変な自体を引き起こしかねない。
とくに幼いころは言っていいことと悪いことの判断もつきにくい。
だからこそ、間違いが起こらないように決してしゃべってはいけないと言いつける。


けれど、次第に彼等は言葉自体を失ってしまうこともある。
ずっと声を発していなければ、どうやったら声がでるのか分からなくなる。
声が出なければ言霊の力は使えない。
そうして、数少ないその力はさらに失われてきたのである。



「そうだったんですか・・・」
「ってちょっと待て。っつーことこうしてこいつが今しゃべってるのってやばいんじゃねぇか?!」



だんだん状況を理解してきたルークが声を張り上げる。
こうして話している言葉に第七音素が含まれていれば危険なことにもなりかねないのだから。



「だいじょうぶ・・です。わたしは・・ちょくせつはなしているわけじゃない・から・・」
「???直接じゃないってどういうことだい?」



さっぱり分からないため、ガイが説明を求めた。
確かに普通に考えてしゃべるのに直接とか間接とかがあるとはおもえない。



「わたしは・このこをかいしてはなしてる・・から。」



そう言って差し出したのは彼女がずっと持っていたぬいぐるみ。
ごく普通のテディベアのようだが、どうやら仕掛けが施されているらしい。



「わたしがしゃべろうとしたこと・・しんどうをかんちしてここからこえをだします・・」



そう言ってテディベアの喉元を指差す。
そこには小さな譜業が埋め込まれていた。


この譜業は微妙な振動を感知して言葉と認識。
それをあらかじめ入力されている声音で発してくれるのだ。



「これ・・わたしのふぉにむとうろくしてます・・・わたしのふぉにむだけにはんのうします」
「へぇ〜こんなに小さい譜業なのにそんなことができるんだな。」



目を輝かせて譜業を眺めるガイに、一同は呆れるしかなかった。
困惑しながらも譜業を見せる
その辺にしておいたら・・?とのティアの言葉に見向きもしないで凝視するガイ。
ついにはの手からぱっとぬいぐるみを奪ってしまう始末である。



「ちょ、ガイ〜!!ちゃんと話できなくなっちゃうでしょ〜!?」



アニスが言うが聞く耳持たず。
最終的にガイが「解体してみたいなぁ・・」とつぶやいてしまったが為に、ナタリアの説教の餌食になった。


戻ってきたぬいぐるみを抱えなおしたを見届けてからゆっくりと歩き出した。




先頭を行くのはルークで、彼の足元にはミュウがいて。
その後ろをティアとナタリア、ガイ、ジェイドが続いていく。
今だ立ち止まっていたアニスとイオンと



「ほら!!いくよ!!」



そんな言葉と同時に差し出された手。
そっと腕を伸ばせばしっかりとアニスにつかまれて、ぐいぐい引っ張られていく。



「早くしないとおいていかれちゃいますよ?」



微笑みながらかけられた言葉。
それにも微笑んで。
少し離れてしまったルークたちとの距離を走って縮めた。



たまにはいいよね?
子供みたいに元気よくいくのもさ。
だって今のわたしはお子様なんだから。