「・・!これは・・」
「予想以上にひどいですね・・・」
第四話
長い旅路を経てやっとついたアクゼリュスは、彼等の想像を上回るほど瘴気で侵されていた。
町の中は薄暗く、鉱山の街なのに人々に活気がない。
疲れはて、座り込んでしまっている人。
瘴気を吸ってしまわないように屋内に退避する人も少なくなかった。
「大丈夫ですの?!」
苦しそうに呻いている人を見つけたナタリアは、すぐさまそちらに駆け寄っていった。
そうしていると、彼等の元に一人の男性がやってきた。
「わたくしはキムラスカ王国の皇女、ナタリア・ランバルディアですわ。
マルクト皇国からの申し入れを受け、救援にまいりました。」
ルークが戸惑っているうちにナタリアがすっと前にでてそう紹介した。
それに心当たりのあった男性は、先発隊は先に坑道の中に入っていると話した。
「それにしても久しぶりじゃないか、ちゃん。戻ってきたのかい?」
一通りの話が終わった後、男性はに向き直って話しかけてきた。
「うん・・。こんなにもしょうきでおおわれてしまったんですね・・」
「そうだな・・・ちゃんがいたころはまだ瘴気も出てなかったしなぁ。まとにかく無事でよかったよ。」
皆心配していたんだぞ?と言ったその人は、優しげにの頭を撫でて作業に戻っていった。
が親しげに声をかけ、それにうれしそうに答えていくアクゼリュスの人たち。
戻ってきたを歓迎している様子がありありと表れていた。
「そっかーはここの人だもんね。知り合いもたくさんいるんだね。」
「そうね・・・なかには亡くなってしまった人もいるでしょうね・・」
たくさんの人が瘴気によって犠牲になっているのだ。
親しかったものが死んでしまっている可能性もある。
今、この瞬間に苦しんでいるということも・・
「私たちに出来るのは一人でも多くの人を助けることです。」
「そうだな。こんな風に立ち話している暇なんてないよな。」
「そうですね。自分に出来ることを、確実にこなしていきましょう。」
まずは情報収集からということで、片っ端から街の人達の話を聞いていった。
そして、一つの宿へとたどり着く。
そこには苦しげに呻いている人が数多く収容されていた。
瘴気に侵されたものたちは、ここに寝かされていくのだという。
効果的な治療策が発見されていないこの状況では、医者に見てもらったとて直る確率はほとんどなかった。
だから発病したら最後、そのまま死を迎えるのをひたすら待つしかないのだという。
「せんせい・・・」
患者を助けられないと、悔しそうにする医者。
それをは哀しげに見つめるしかなかった。
「そんな顔するなよ、。お前が帰ってきて、みんな多少は持ちなおしてるんだぜ?」
「でも・・・」
「が笑ってる。それだけで、心があったかくなってくるんだ。」
だからお前は笑ってろ。
そういう医者はやっぱり以前あったときよりもやつれていた。
どこか具合悪そうにしていて、だけどそれでも笑みをうかべてくれている。
「・・うん、わかった。いっぱいわらうよ。」
「それでいい。・・そうだ、久々に舞ってくれよ。皆の舞いを楽しみにしてたんだ」
「うん、もちろん!まってて、すぐよういするから・・」
パタパタと軽快な足音を立てて一室へと駆け込んでいったに、ルークたちはあっけにとられていた。
「舞って・・・は舞いを踊るんですか?」
イオンが尋ねると、医者はうれしそうに笑った。
「おう!の舞はいいぞ、こっちが元気になってくるんだ。・・おーい!!が舞台に立つぞー」
前半部分を彼等に、後半部分を待ちの人々へ向けていった。
彼が叫んだ言葉に、人が続々と集まってくる。
この中に入りきれるのかどうか分からないくらい多かった。
「おい、こんなに大勢この中に入れるのかよ?!」
思わず声を張り上げたルーク。
それに街の人々は楽しげに答えた。
「大丈夫だって。舞台はこの宿の中じゃなくて、外だから。」
言われて外へ出てみると、そこにはもうしわけ程度に少しだけ高くなっているところがあった。
きっとここが彼等の言う『舞台』なのだろう。
その前にぞろぞろと並んでたってしばらく待っていると、の準備が出来たようだ。
宿の中から舞い装束に着替えたが出てきて、舞台の上にたった。
ひらひらとした布を何枚にも重ねた服。
手首や足首、そして普段は下ろしている髪を一部結い上げたところに、それぞれいくつか鈴がついていた。
そのために彼女が動くたびに鈴がなる。
一度下を向いて、それから正面を見据えたあと、彼女は舞を踊り始めた。
リン・・リン・・リン・・・・・
曲を奏で、それにあわせて踊っているわけではなかった。
が舞うその動きにあわせて鈴がなっているだけ。
歌があるわけでもない。ただ、静かななかに鈴の音と彼女の軽快な足音が響きわたっていた。
リーン・・リンリンリン・・リン・・・
不思議な感覚だった。
彼女が地を踏むたびに、その場の穢れが祓われていくようだった。
羽があるかのようにふわりと空を舞うその姿に、自然と勇気が湧いてくる気がした。
俺たちにだって空が飛べる気がしたんだ。
医者が元気になるといったわけがなんとなく分かった。
鈴の音だけのその舞は、一見ただ人々に癒しを与えるだけに見える。
だけど・・・そんなんじゃないんだ。
声無き言葉が聞こえてくるきがするんだ。
大丈夫、がんばれる。あきらめないで。
それはの想いなのだろうか。
空を切り裂く風の音が、いっそう勇ましく感じさせて。
とまることの無い鈴の音が、とても心地よかった。
オレに出来ること・・・
ヴァン先生は言った。
オレには瘴気消せるんだって。
瘴気が無くなれば苦しむ人なんていなくなるんだ。
だから・・・
オレはオレに出来ること・・
超振動を使って瘴気を消すことを、やり遂げてやる。
そしたら・・・そしたらもきっとよろこんでくれるよな?
オレは英雄になるんだ!!
