「グランツ響長!第七譜石らしき物を発見致しました。至急ご確認願いたいのですが…」
第五話
坑道へ入ろうとした瞬間、一人のオラクル兵がティアに声をかけてきた。
第七譜石…ティアが探すよう大詠師モースに命令されていたものである。
彼女が優先すべきは瘴気ではなく第七譜石であり、それらしきものが発見された今、それを確認する義務がある。
そのためティアは一時ルーク達と離れることとなった。
ティアを除く一行が坑道に入ってしばらく進むと、そこには地獄絵図のような光景が広がっていた。
瘴気に侵された人々が、そこら中に倒れている。
あわてて駆け寄るものたちのなかで、ルークとジェイドは立ち止まって考えこんでいた。
「先発隊の姿がない・・?」
先に坑道に入ったと聞いていたのに、なぜかこの悲惨な惨状に彼等の姿が見当たらない。
救援に来た者達が、倒れている人々をほおっておくはずがないのに。
「―――!!」
と、その時坑道の外で何か騒ぐ声が聞こえた。
「何か起こったのでしょうか・・・少し様子を見てきます。」
気になったジェイドはその場から離れ、上へと向かった。
この時の決断を後に悔やむことになるとは、さすがのジェイドも予想できなかった・・・
***
「ヴァン師匠!!」
ルークとイオン、この二人だけが坑道のさらに奥へと進むと、そこにはヴァンの姿があった。
彼一人だけが、不可思議な封印・・ダアト式封呪の前に立っていた。
「ルーク、来たか・・。導師この封印をといてください。」
「これは・・ダアト式封呪・・?ではここもセフィロトなんですか?」
ダアト式封呪がかけたれているのはセフィロトを守るため。
ということは、ここアクゼリュスもセフィロトなのだろう。
しかし、この状況下でなぜ封印を解く必要があるのだろうか。
そんな疑問がイオンの中に浮かんだ。
今までも数度、六神将に連れられて封印をといたことがあるが、あれも何の意味があったのか分からずじまいだ。
ただ、言われたとおりに封印をといてきたのだが、果たしてそれでよかったのだろうか。
「ほら、イオン!師匠の言うとおりにしてくれよ。そうすれば瘴気が消せるんだから!!」
「瘴気が消える・・・?それは一体・・・」
ルークの言葉は不可思議だった。
瘴気を消す方法など果たしてあるのだろうか。
そして、なぜそれがこの封印をとくことにつながるのか。
まったくもってわからなかったが、ルークにせかされて仕方なく解呪をはじめた。
封呪が消えると、そこにはぽっかりと入り口が出来た。
そこにずんずんと進んでいくヴァンに、イオンとルークも続く。
『おい、それ以上奥に進むな!!手遅れになるぞ!』
「っつ・・」
突然の頭痛。
それとともに聞こえる誰かの声。
自分と同じ顔をもつあいつ・・アッシュの声だ。
なぜアッシュの声が聞こえるのか分からなかったが、ルークは彼の指示に従う気はまったく無かった。
ルークにとって一番優先すべき指示はヴァンのもの。
というより彼の言葉ぐらいしか聞き届けたくない。
この坑道に入ってからすでに数回、こうしてアッシュの止める声が聞こえてきたが、毎回無視し続けてきた。
『いい加減にしろっつーの!!』
思わず心の中でつぶやきながら、ルークはヴァンの後を追った。
アッシュの舌打ちが聞こえた気もしなくは無いが、それは今の彼にとって重要視すべきものではなかった。
***
「・・・!」
は坑道の中には入らずに医者の手当ての手伝いをしていた。
といっても出来ることなんてほとんど無く、ただ患者の汗を拭いてあげたり、食事の準備をしたりするだけだった。
これといった特効薬が見つからぬ今、医者とてできることは少ない。
また、このアクゼリュスにある薬品もすでに底をつきかけている。
出来ることがなくて、休憩をもらったは宿の外へ出ていた。
彼女もまた、騒がしくなったのを気にしていたのである。
「兄は・・?兄はどこにいるんですか?!」
騒ぎの中心でティアが兄ヴァンの居場所を聞いていた。
「ヴァン謡将なら坑道の奥にいらっしゃると思いますが・・・一体どうしたんですか、ティア。」
彼女のあまりの取り乱しように、何か良くない予感が生まれてくる。
そして、それはありがたくないことにしっかりと当たってしまうのであった。
「兄は、兄はアクゼリュスを崩壊させるつもりなんです!!彼がアッシュが教えてくれました!」
「くそ、あの屑が!!」
魔物を引き連れて走っていくアッシュ。
それに続いてティアとジェイドが、簡単な説明をしながら続いた。
“アクゼリュス・・崩壊・・ヴァン・・屑・・まさか・・?!”
彼等の会話に出てきた単語、それを繰り返しながら考えていると、ある一つの仮定が生まれてきた。
それは、最悪のものである。
“じゃぁやっぱり彼がアノ人なの・・?”
グラグラグラ・・・
考えこんでいると、突然地面が揺れ始める。
そして大きな破壊音を立てながらひび割れがはしり、場所によってはぱっくりと割れてしまいはじめた。
“パッセージリングの崩壊・・?!いけない・・このままじゃアクゼリュスが・・!!”
事態をほぼ認識したとたん、の立っていた場所も崩れ始める。
「―――!!!」
あの落ちるときの独特の浮遊感がアクゼリュスの人々を襲った。
落ちる、落ちる・・・
どこまでも落ちて、落ちて、落ちて・・・・
遙かな下に存在する魔界まで、アクゼリュスも、そこに住んでいた人々も、全部落ちていく。
「ごめんなさい・・・」
そうつぶやいたのは一体誰だったのだろうか。
それを聞いたものはおらず、またいたとしても彼等はすでに話すこともできない・・・
ごめんなさい、力がなくて・・・
私は気づかなくてはいけなかったのに。
全てのピースはそろっていた。
それをつなぎ合わせるのは私の役目なのに・・・
ごめんなさい、ごめんなさい。
皆を助けられなくて。
あなたを辛い目に合わせて・・・
