ティアの部屋からつながっているこの場所には、一面にセレニアの花が咲き誇っていた。
この薄暗い魔界で咲く唯一の花。
その白い輝きを、私とティアは眺めていた。
私もティアも、互いに何も話さなくて。
ただ、その静かな時間に少しの安らぎを得ていた。







第八話





、ティア・・・!!」



シュンッ・・・というあの独特の扉の開く音が聞こえた。
それに続いて久しぶりに聞く彼の声。



「「ルーク・・・」」



眠りっぱなしだった彼は、前とは雰囲気が変わったように見えた。
めんどくさそうに、全てのことを楽観的に考えていたルーク。
今はそんな雰囲気が薄くなったように感じた。
あれだけのことが起こったのだから、当然といえば当然なのかもしれないけれど。
それでも今までと違うことに少しの安堵感を覚えた。



「大変なんだ!!このままじゃ、セントビナーが崩落するってアッシュが・・・!!」



ガシッっとティアの方をつかんでそう訴えるルーク。
どこまでも必死なその様子と、言葉の内容にティアも私も驚きが隠せなかった。



「一体どういうこと・・?」



ずっと眠っていたルークが、なぜそんなことを知っているのか。
そしてなぜそこでアッシュが出てくるのか。
私たちにはほとほと疑問だったのだ。



「俺、ずっと見ていたんだ。アッシュと俺はつながっているから、あいつを通してみていたんだ。」


だから知っているのだとルークはいった。
そしてアッシュが崩落するといっていたのだから早く手を打つべきだと私たちに訴えたのだ。



「・・・それで、貴方はどうするつもりなの?」
「えっ・・・?」


ルークはすぐに対応してくれると思っていたのだろうか。
予想とは違いどこか冷たい反応のティアに、ルークは戸惑いの表情を見せた。



「それじゃぁアクゼリュスのときと同じだわ。誰かに言われたからって・・人の言葉に左右されすぎよ」



人の言葉に左右されることが、必ずしも悪いとは言わない。
忠告を無視すれば、後々後悔することになるかもしれないのだから。
けれど・・・全ての選択を人任せにしてしまうのは間違っている。
それでは結局のところ自分では何も出来ない人になってしまうのだから。
それでは、こうして命をもらって生きていることの意味がないのだから。



「俺・・・・そっか・・こんなんだから、皆に置いていかれちまうんだよな・・・」



ずっと見ていたから・・タルタロスで皆が上に上がってしまったことも知っている。
このときのルークは本当に痛々しくて・・・見ている私も辛くなってきてしまう。


だけど・・甘やかすだけじゃ、やっぱりまた繰り返してしまうだけだから。



ティアはルークの為にいつも厳しいことを言った。
それは彼にとってみればうっとおしい存在だったのかもしれない。
けれど、そうして誰かが注意してくれないと、人は間違っていることに気づかない。
ティアはそれを知っているから、どれだけ邪険に扱われようとルークに言い続けたのだ。
彼女にとってもけっして気持ちのいいことではないはずなのに。
ルークのためを思って、いつも声をかけるのだ。


私はただ問いかけるだけ。
ティアの言葉を受けて、ルークが考えられるように。
そのきっかけを与えるだけ。

だから私は、彼にむけてたった一つの言の葉を投げかけた。




「ルークはどうしたい?」







彼があの言葉を返してくれると信じて・・・・