一人、また一人と赤にのまれていくものたち。
叫ぶものもいたけれど、みんな諦めていた。
ボクラは失敗作だから。
この灼熱の赤へと身を任せるしかないんだ。
それが、どんなに理不尽な運命だったとしても、ボクらにはそうするしかなかった。
あぁボクの番・・?
ゆっくりと、けれど確実にボクの足。
止めたい。でも止めてどうする?
生きて、ボクは何をする?
何にもない。
ボクらには何もありはしないんだ。
全部空っぽなんだ。
ここで助かったとしても、どうしようもない。
なんでボクらを作ったのさ・・・?
こんな風に捨てる存在を、どうしてお前等は作った?
生きたいとは思わない。
死にたいとも思えない。
だけど、お前等はキライだ。
何もないボクの心を、この黒が満たしていく。
ボクの心は、いつの間にか漆黒の闇に包まれていたんだ。
もう何も見えなかった。
足元に広がるその入り口さえ、ボクには見えていなかった。
一歩足を踏み出す。
そこには地面が無かった。
紅い入り口が、ぽっかりと口をあけて、ボクを待っていた。
独特の浮遊感がボクを襲う。
落ちる・・・あぁボクは死ぬんだ。
そう思った。
けれど、いつまでたってもボクは赤に包まれることはなかった。
何・・・・?
いつの間にか閉じていた目を開けると、ボクは中に浮いていた。
足元には確かに入り口があるのに。
ボクはそこに落ちることは無かった。
ふわりと風を感じたと思ったら、ボクは地面に立っていた。
どうして・・・?
その答えはすぐに分かった。
目の前に、一人の少女がいたんだ。
先ほどまでは確かにいなかったその存在が、ボクを助けた。
「様、なぜこんなことを・・?!」
研究者たちも驚いていた。
破棄することが決定したボクら。
なぜ助けるのか。
使い道のない失敗作など、必要がないというのに・・・
「その子は他の子よりも能力が高いもの。これからの計画に十分役に立つわ。」
少女はそれだけを言って、ボクの手をつかんだ。
いくわよ、と一言ボクに告げると、そのままボクを引っ張っていく。
何がなんだか分からなかった。
ボクは確かに他のレプリカよりも能力は高かった。
本当だったら、ボクがイオンになれるほどに・・・
けれど、一番重要な導師としての能力が七番目よりも弱かった。
ボクはイオンになり損ねたんだ。
「様!!勝手にそんなことをされては困ります!!」
研究者たちの叫ぶ声が聞こえる。
当たり前だ。下手をすれば自分たちが処罰されかねないのだから。
うっとおしそうに顔をゆがめながら少女は立ち止まった。
そして研究者たちの方へ振り返る。
「ヴァンに許可はもらっているわ。・・・シンクは連れて行くわよ。」
どこか冷たい眼を向けてそういい捨てると、彼女はまた歩きだした。
引っ張られた腕は少しだけ痛かった。
だけど、そんなことは全然気にならなかったんだ。
ボクの心に小さな光がさした。
真っ暗だったボクの心は、その灯りに照らされた。
それは小さくて、今にも消えてしまいそうなほど弱いものだったけれど・・
ボクの心を照らすには、十分な光だった。
その日ボクはシンクになった。
生まれたことを恨んだことはあったけれど、あの時のことを疎ましく思ったことは一度もなかった。