本当はずっと前から・・・
「イオン様を返してー!!」
アリエッタは導師守護役を解任されて、六神将になりました。
寂しくて悲しかったけれど、イオン様の命令には逆らえないから・・・
しかたなく、総長の為に働くことを了承しました。
アリエッタの代わりに守護役になったのはアニス。
アリエッタのいた場所が、アニスに当然のように奪われた。
苦しくて、悲しくて、アリエッタはアニスを責め続けた。
イオン様が変わってしまったのはアニスのせいだと言い張って・・・・
アニスは優しかった。
アリエッタにたくさんきついことを言うけれど、アリエッタがイタイ心を吐き出せるようにしてくれていた。
自分のせいではないといっていたけれど、心のどこかで後ろめたさがあったんだと思う。
アリエッタのわがままに、アニスはいつでも答えてくれたの。
アリエッタとアニスはいつも喧嘩ばかりだったけれど・・・・
本当はきっととても近い存在で、イオン様のことがなければ友達になれたのかなって思うの。
アニスは強くて優しい。
だけど、だからこそ弱さもあって・・・
アニスはモースに逆らえなかった。
“両親”という大きな存在を背負い続けていた。
そのせいでイオン様はいなくなってしまった。
アニスはイオン様の信頼を裏切った。
だけど、アリエッタは気づいてしまったの。
イオン様はアニスがモースと繋がっていることを知っていたんだってことに・・・
分かっていて、イオン様はアニスについて行ってしまった。
アリエッタにはわかってしまったんです。
このイオン様はアニスが一番大切なんだってこと・・・・
イオン様はもうアリエッタの知るイオン様ではないってことも・・・・
アリエッタにとってイオン様は予言そのものだったのかもしれません。
イオン様の言うことは正しくて、彼が間違っているといえば全てが罪なのだと思っていた。
アリエッタの世界はイオン様を中心に回っていた。
アリエッタにとってイオン様はかけがえのない存在で、だからこそ失いたくなかった。
アリエッタが求めたイオン様は彼じゃない。
アリエッタは導師イオンを求めたわけじゃないのだから・・・
だけど、アリエッタの知るイオン様ではなくても、それでもアリエッタにとってイオン様という存在は大きかったの。
だからこそアニスがイオン様の隣にいることが許せなかったんです。
アニスは罪を犯しました。
彼がアニスを信じるその気持ちを利用した。
彼を殺したのは、彼が一番大切に想うアニスだった。
だけど、アニスはその罪を簡単に許された。
アニスの仲間・・・ママたちを殺した人たちは、親を人質に取られていたのだから仕方がないのだといったの。
両親とイオン様をはかりにかけて、両親を選んでしまうのは仕方がないのだと・・・・
自分たちだって騙されていたのに、アニスが悪いわけではないのだと言って簡単に許してしまったんです。
そんなの許せなかった。
アニスはイオン様だけでなくたくさんの人を騙していたのに。
そのせいで死んだ人もたくさんいるのに。
それなのに、その罪さえも両親を守るためなら許されてしまうんですか?
そんなのおかしい。
だってアリエッタのママたちを殺したのはあなたたちじゃない。
弟や妹を守るために戦ったママを殺したのは彼らなのに!!
まだ生まれてもいない兄弟たちを殺したのに!!
アニスだけ許されるなんて、そんなの認められない。
「アリエッタはアニスに決闘を申し込みます!!」
アリエッタが指定した日、アニスはちゃんとこの場所にやってきました。
アリエッタは精一杯戦いました。
それがあの日アリエッタを人にしてくれたイオン様への恩返しだと思ったの。
変わってしまったイオン様だったけれど、それでもイオン様の為に何かがしたかったんです。
アニスはそんなアリエッタの気持ちにこたえてくれました。
アニスも全力で戦ってくれました。
アリエッタが地に伏せるとき、アニスの震えた声が聞こえてきた。
ごめんと謝るアニスに、アリエッタは答えることが出来なかった。
だけどアニスのその気持ちは確かにアリエッタに届いていたよ。
アニスが悪いわけではないのだと、本当は知っていたんです。
アリエッタだって、イオン様の為、総長の為、と言ってたくさんの人を殺してきているんだから。
その仮定に騙すという動作が入るか入らないか。
アリエッタとアニスの違いはたったそれだけのことだったの。
アニスを責めることなんて本当は出来ないんです。
だけど、アリエッタはそうすることしか出来なかった。
アリエッタはアニスのように強くいられなかった。
アリエッタは弱くて、臆病なんだもの。
だから本当に聞きたかったことを聞くことが出来なかったの。
本当に伝えたかった想いを伝えることが出来なかったんです。
聞く勇気も、伝える勇気も、アリエッタは持っていなかったんです。
アリエッタは気づいていました。
イオン様を求める心は、変わってしまったイオン様の微笑みを見たとたんに止まってしまっていたことを。
過去のものになってきていたことに気づいていたんです。
だけどアリエッタは知らないふりをしました。
そうしていつもイオン様と呼び続けることで、ずっとあのときのアリエッタでいられると思っていた。
変わらないでいられると、一人ぼっちにならなくてすむのだと思い込んでいたの。
一人になったのだと涙を流すときがありました。
「イオン様」
そう呼びかけても誰も答えてくれなくて、さらに寂しが募っていくばかり。
そんな時、いつも側にいてくれた人がいた。
いつもいつも辛い物言いばかりで、アリエッタは怖い人だと思っていた。
冷たい人なんだと思っていたんです。
だけど、寂しいとき、ふっと誰かに会いたくなったとき
気がつけば彼は隣にいてくれた。
もちろん優しい言葉なんて一回ももらったことありません。
だけど、ただ側にいてくれるだけでよかったんです。
冷たい言葉の中に、確かに温かさがあったんだもの。
彼がどうしてそうしてくれるのかは分からなかった。
彼が何を背負っているのかも、彼が顔を隠す理由も
何もかも、アリエッタは知らないんです。
わかるのは、その声と、参謀として働く姿と、側に感じる温かさ。
アリエッタは本当は少しずつ変わっていた。
アリエッタの求める人はいつからかイオン様ではなくなっていた。
寂しいと思ったとき、シンクと呼びそうになる自分がいた。
あの逆立った緑の髪を、自然と目で探している自分がいた。
アリエッタは気づいていました。
本当はずっとずっと前から分かっていて、知らないふりをし続けていました。
アリエッタの想いを伝えたい相手はイオン様じゃなかったんです。
ごめんなさい、イオン様
アリエッタはあのときのままのアリエッタではいられませんでした。
「そのままでいて」と言ったイオン様の言葉を、守ることが出来ませんでした。
ごめんなさい。
アリエッタは何も伝えることができません。
最期になって、やっと言いたい言葉が見つかったのにこの場所にあなたはいない。
どうしても伝えたい言葉があるのに、アリエッタにはもうその時間さえも残されていないの。
ごめんね、シンク
アリエッタは、本当はずっと前から・・・・・・・・・・
あなたが一番大切だったんです。
この想いを風が彼の元へ届けてくれるといいのに