8.必死で、それなのに





「イオン様!!大丈夫ですか?」

「あぁアリエッタ。きみのおかげで怪我一つないよ。」




よく頑張ったね、と頭を撫でてくれたのはイオン様だった。
アリエッタは最初は人の言葉も喋れなくて、イオン様に会ったときも只唸って威嚇しているだけだった。
普通だったら導師にはむかった罰で殺されてもおかしくなかったのに、イオン様はそうはしなかった。
微笑みを携えて近付いてきて、たった一言だけ言ったんだ。





「一緒にこないかい?」



ただそれだけ。
でも、アリエッタにとってそれははじめましてもらった言葉だった。
敵意を含んでいない唯一の人の言葉。


差し出されたその手に手をのばすと、後ろにいた人たちが騒いだけれど、アリエッタはその手を掴んだ。







温かかった。



ママとも、皆とも違う毛皮のない手。
アリエッタよりも少しだけ大きいそれは、アリエッタを優しく包みこんでくれた。






アリエッタはそのときに思ったの。
ずっとずっとイオン様と一緒にいたいって。
だから決めたんだ。
そのためにアリエッタは頑張っていこう、イオン様の為に生きて行こうって。










ダアトに行って、アリエッタは導師守護役になった。
イオン様を守る為に、人も殺した。
それが辛くなかったわけではないけど、イオン様か褒めてくれたから、アリエッタはやり続けれたの。
イオン様といる為に、アリエッタは戦い続けた。





それなのに…





イオン様…どうしてアリエッタを遠ざけるの…?
ある日、イオン様が言ったのはアリエッタを突き放す言葉だった。




「アリエッタ、あなたを導師守護役から解任します」

「どうしてですか…?!アリエッタ何か失敗しましたか?!」





嫌だよ…そばにいさせて…イオン様を守らせて…




「ゴメンアリエッタ…」

「イオン様!!アリエッタ頑張るから…だから、だからアリエッタを「これは決定事項です…
アリエッタには導師守護役解任後、六神将になってもらいます」」





アリエッタの言葉を遮って言われたそれは、僅かな希望をも打ち砕くものだった。
次の役割が決まってしまっているのだから、もうこの決定が覆ることはない。





「イオン様〜…」



涙が溢れて止まらなかった。
いつもだったらあの温かい手で拭ってくれるイオン様。
だけど、今はもうこちらを見てはくれなかった。
アリエッタがどんなに叫んでも、書類を眺め続けた。












アリエッタは六神将になった。
もうイオン様に会うことは滅多にない。
たまに教団内ですれ違うくらい…。




そんな時、イオン様のそばにはいつもアニスという少女の姿があった。
アリエッタが突き放されたその場所に、彼女は当然のようにおさまっていた。
人形士としての能力が高いから、アリエッタの後任に彼女が入るのは自然な流れなのかもしれない。



だけど…





アリエッタには納得できなかった。
どうしてアニスなの…?アリエッタじゃ、ダメなの…?




それを総長に聞いたら、アリエッタが弱いからダメなんだって言った。
アニスよりも弱いから…だからアニスに居場所を取られちゃうんだって。




ねぇイオン様、
アリエッタが強くなったら、一緒にいさせてくれる?
アリエッタ強くなるよ。
アニスよりも、ずっとずっと強く…総長が、アリエッタに命令したことちゃんと守るから…



だから…アニスじゃなくて、アリエッタをおそばに置いて下さい。







アリエッタはイオン様の為に生きたいよ…