「覚悟はできているんですよね?もちろん」



そう言って笑みを浮かべたジェイド。
笑っているはずなのに、とても身の危険を感じるのは気のせいではないはずだ。



「え、いや、その…ガイ!」



黒オーラ全開のジェイドに、ルークはしどろもどろになりながらガイに助けを求めた。



「俺?!あー…だ、旦那もう少し落ち着かれては…なんでもないです。」



ギロリと睨まれてすかさず目線をそらした。



「ティ、ティア!!」
「ごめんなさい、ルーク。私には無理だわ」



ティアに助けを求めるが、即答されてしまう。



「アニス」
「大佐に逆らうと恐いからやだよ〜」
「イオ「イオン様を巻き込むつもり?!」



最高権力者のイオンに助けてもらおうとするが、アニスにギロリと睨まれてしまう。
ナタリアとは買い出しにいかされていてこの場にはいない。



「さて、お別れは済みましたか」
「えっと、そのだな〜」



別れってなんだよ!と内心ツッコミつつ、みんなの顔を見回すが、だれもルークと目を合わせようとしなかった。
このままお仕置きに突入するのはいやだ!!という思いだけで、必死に言い訳を考える。




「お、落ち着けってジェイド。そんな怒ることないだろ…?」
「失礼ですね。私は未だかつてないほど冷静ですよ」



が、やはりルークの考えつくようなもので、天下のジェイドをうまいことごまかすことは出来ないようだ。
笑いながらさらりと言い返されて、返す言葉が見つからない。







ニッコリと笑みを浮かべるジェイドほど怖いものはない。
ササッとジェイドとルークの周りにぽっかりと空間ができる。
完璧に孤立無援になったルークにジワリ、ジワリと近づいてくる。蛇に睨まれた
蛙状態なルークは、逃げたくても体が動かない。





だ、誰か助けてくれ!!
そんな心の声が聞こえたのか、彼に救いの声がかかった。



「ルーク、どうしたの?」



買い出しに行っていたとナタリアが帰ってきたのだ。



「皆さん集まってなにをなさっているのです?」



固まって動けないもの多数、それに徐々に近づくもの一人。
しかも変な空間があいていて、傍目からみるととてつもなく怪しい。



「いえね、ルークが悪い子なんで、少しお仕置きをしようかと思いまして。」
「まぁそうでしたの?」
「えぇそうだったんです」
「…ナタリアすご…」




明らかに黒オーラが漂っているというのに、ナタリアは全く怯えた様子がない。
オーラが恐くないのか、そもそも気付いていないのか。
まぁ天然皇女ナタリアのことだ、きっと後者だろう。



「ではお邪魔してはいけませんわね。皆さん宿に戻りましょう?」
「え、ちょ、ナタリア!?」



このまま助かるかとおもいきや、ナタリアはあっさりルークを見捨てた。



「悪いことをしたんですもの…しっかり怒られて反省するんですよ、ルーク」



さ、いきますわよ。と促して、彼女たちは宿へ戻ろうとする。



「ま、まてって!!」



必死に引き止めようとするが、皆も自分の命が惜しいため、ササッと立ち去ってしまう。







「さ、いいかげん心の準備もできましたよね?」




それは正しく地獄への誘い。
ルークは抗う術をもたなかった。











パタパタ…



逃げられない、と思ったとき、そんな軽快な足音が近付いてきた。



「ルーク!悪いけど武器屋に忘れ物しちゃったからついてきて!!」




ガシッとルークの腕を掴んで、グイグイと引っ張る
それに、ジェイドの眉がピクリと動く。



〜?ルークは今忙しいのです。ガイにでもついてきてもらいなさい?」



やんわりと言うが、そこはかとなくとっとと失せろというニュアンスが混じっている気がするのは気のせいだろうか。
はそれを全くきにせずに反論した。




「だってガイ宿にいないんだもん。だけど重いものだからティアとかに頼むわけにもいかないし。なんならジェイドでもいいよ?」



どうやらガイは宿ではなく別の場所に逃げたようだ。
そのため、荷物持ちに使える人がルークしかいないのだ。
ジェイドが荷物持ちになるなど、有り得ないのだから。



「…仕方ないですねぇ。」



渋々ルークを開放したジェイドはそのままどこかへ行ってしまった。
やはり自分が働く気はさらさらないようだ。



「…後が恐っ」



帰ってきてからたっぷり罰を与えますからねといいのこしたジェイド。
去り際に釘をさしていくことも忘れないあたり、さすがとしかいいようがない。



「まぁまぁ。武器屋いこ!」



ズルズルと、なかば引きずられるように連れていかれたそこには、剣が一本置き去りにされていただけだった。



「これだけなのか…?」



渡された剣を持って尋ねると、彼女は笑いながらそうだよ、と答えた。



「…ありがとな」



照れた顔をなんとかごまかしながら、俺は感謝の言葉を述べた。
は俺を助けるために、わざと剣を一本置いていったんだろう。
荷物もちといえば、ジェイドも俺を見逃すほかないから。



「なんのこと…?」



はとぼけたように笑った。
俺もそれにつられるように笑って。
さっきまでの恐怖が嘘みたいに、途中で寄り道しながら楽しく宿まで帰ったんだ。











は不思議なやつだ。
俺のこと、見てないようで良く見てて、さりげなくフォローしてくれる。
少女の姿だったときも、あんなにわがまま三昧だった俺のこと心配してくれていた。
アニスやイオンと並んで歩いていることが多かったけど、俺が不機嫌になってきたとき。
は自然と俺の隣を歩いてた。
避けるんじゃなくて、逆に近づいてきてたんだ。

あのときは、うざいとか思ってたけど。
でもよくよく考えてみれば、あれは俺を一人にしない為だったのかなって思うんだ。
一人じゃないって教えてくれてたんじゃないかってさ。





ありがとな。
いつも俺を見ていてくれていて。
俺を一人にしないでくれて。
俺にいろいろなことを教えてくれて。
ありがとう。



















***










そのころ宿では・・・








「おやぁ・・?ガイではありませんか。」
「うわぁ!!だ、旦那・・!?ルークのことは終わったのか・・?」



突然背後から現れたジェイドに驚いたガイは、奇声を発した。
それに、失礼ですねぇといいつつも、ジェイドは逃げられました。とあっさりと告げた。




「それよりも・・ガイは出かけたのではなかったのですか?」
「・・?俺はあれからすぐに宿にきたけど・・・?」



一体何のことだか分からないというガイをジェイドはあっさり無視した。




「・・後でたっぷりお仕置きしないといけませんね・・・それはもうた〜っっぷりと・・」



ふふふふふ・・・と怪しい笑みを浮かべるジェイドにザザッっとガイは後ずさりした。





『こ、怖すぎる・・!!』





思わず涙が出てきてしまいそうなくらい恐ろしかった。

ルークは生きていられるんだろうか・・・と本気で心配になったガイラルディアだった。