君と僕と、笑顔の仲間達




 
 ウンディーネデーカン・ルナ・13の日。
ここは神託の盾騎士団本部。
今日は色んな意味でバタバタしている。

「じゃ、カンタビレ、後はよろしく。」

「了解しました、師団長。」

ここは本部の演習場。
本日は第六師団が訓練のために使用している。
午前のみなので、そんなに長くない訓練時間。
この会話は師団長のと副官のカンタビレだ。

「それじゃ、何かあったら呼んで。部屋にいるから。」

「はい。…あの、師団長…いや、。」

今日、は最近の任務の書類整理をしなければならない。
兵が訓練している時はそれを指示する者が付いていなければならないが、今日はカンタビレが見ることに。
そしてが部屋へ戻ろうとする時、カンタビレがそれを一時止める。
兵がいるために少し声を小さくし、敬語を外した口調で呼び止める。
はそれに振り向くと、何?と笑顔で振り向き、少し頭を傾ける。

「…今、何か欲しいものはありますか?」

「えっ…なんで?」

急に訪ねられて、戸惑う
そして質問を質問で返されたカンタビレも戸惑ってしまう。

「いや…(って何でこんな展開になるのかな…)何となくだ。うん、何となく;;」

どこか冷や汗を流しながらぎこちない笑顔で答えた。
はカンタビレを不思議に思いながら、う〜ん…と手を顎に当て考え始めた。

「う…ん、今は特に無いかな。」

笑顔ではそう言った。
カンタビレもそうですかって笑顔で返すと、それじゃ行くねとは手を振って演習場を出た。

「…特に無いか…って聞いた意味がないな。」

の後ろ姿を見送り、敬礼していた手を下ろしたときだった。
演習場の扉が閉められ、カンタビレは溜め息を吐きながら脱力感を感じた。
そこへ後ろから1人の兵が来る。

「副官!」

聞き覚えのある声。
歩くたびに奏でる兵の鎧の音はもう何年聞いただろうか。
毎日聞くものだから慣れというより、生活上での当たり前になっていた。

「その声は…チェレスタか。」

カンタビレが振り向くと、兵はすぐに敬礼を施す。
僅かに見える瞳が彼のものだと、カンタビレは分かった。

「はい、自分であります。あの…師団長はいかがでしたか?」

「…あぁ…特に無いと言っていた。はぁ…兵の訓練を一次止め、ここで会議を開く。全員に伝えろ。」

「了解!」

チェレスタはすぐ走り、兵達に呼びかける。
すぐさま兵達は自らの武器をしまい整列する。
カンタビレは頭を抱えながら、ゆっくりと壇上に向った。
さて、どうしようかと悩みながら。








 「というわけで、師団長に聞けば今は特に無いとの答えだった。」

カンタビレの報告に兵達は頭を悩ませた。
壇上で立っているカンタビレも頭を抱えている。

「先月のバレンタインデーのお返しをどうするか、みなに意見を聞きたい。」

そう、明日はホワイトデー。
先月のバレンタイデーに第六師団兵はから手作りチョコを貰った。
そのお返しをどうするかという会議だ。
先ほど、に聞いたのはそのためだ。

「副官、1人それぞれ100ガルドずつ出してもらい、それを使って買いに行くのはどうですか?」

急にその言葉を発したのはチェレスタだった。
すると、他の兵もそれがいいと呟くようになった。
カンタビレも関心したように、考え始めた。

「よし、チェレスタの意見を通そう。まずは1人ずつ100ガルドを出してもらう、その後で何を買うか決めることにしよう。」

班のリーダーを中心にお金が徴収された。
ちなみに、1人100ガルド。
そして、兵数は約8000人。
つまり、100ガルド×約8000人=合計約800000ガルドだ。

「おし、それじゃ何を買うかみな意見を出してくれ!」

カンタビレの声がかかると、みな意見を出し合った。
そして予算と都合を考えスムーズに買うものが決まった。
やがて、お昼が近付くと訓練時間の終わりが近付いていた。
午後は皆休みのため、買出しは午後に行くように指示した。

「それじゃ、分かれて買出しに行くように。あと、なるべく師団長に気付かれないように行動を慎むこと。では、これにて解散!」

「「了解。」」

兵達はみな敬礼を施し、それぞれ演習場を出た。
その後、数人の兵が神託の盾本部を出る姿を目撃したのが大勢もいたが、はそれに気付くことは無かった。

「…さて、俺も任務開始、だな。」

1人演習場でそう呟いたカンタビレも自身の部屋へ向い、夕方に神託の盾本部を出た。









 ウンディーネデーカン・イフリート・14の日。
いよいよ、この日を迎えた。
この日はオールドラント全共通に行われる行事、ホワイトデーの日だ。

「…はい。というわけで、次の任務の説明は終わりです。今日は本部の警備を担当の者は遅れずに行って下さい。
 明日の任務は1日なので任された班はよく休めておくように。それ以外の兵は今日1日訓練、以上です!」

は自分の部下である兵達にそう告げると、壇上から下り始めた。
透かさず、カンタビレがに声をかける。

「師団長、お待ち下さい。」

急に発せられた言葉には振り向く。
カンタビレがもう一度壇上に上がるようにと、手を差し出している。
は疑問符を浮かべながら壇上に上がった。

「カンタビレ、一体…「師団長、今日は何日ですか?」

の言葉を遮り、カンタビレが尋ねる。
その時の兵達はあっ、と思っただろう。
色んな意味で任務開始だと。

「えっ…今日は、ウンディーネデーカン・イフリート・14の日でしょ?」

は間違えってないよね?と兵達に振り向く。
兵達もうんうんと頷いてくれる。

「師団長、ちょうど先月は何の日ですか?」

またの質問には振り返ると、えっと…と零しながら日付を言った。

「シルフデーカン・レム・14の日…?あっ、そうだバレンタインデーだったんだよね。」

は微笑んで先月のバレンタインデーを思い出した。
その無邪気な笑顔は今日は何の日だかも知らなそうだった。

「なので、今日はホワイトデーですよ、師団長。」

「あっ、そっか!今日はホワイトデーなんだ、昨日の書類が頭いっぱいで忘れてた…!」

あははと笑みを零し、笑顔でカンタビレに向ける。
こんな人が師団長か、なんて心の隅で思ったカンタビレも僅かに微笑む。

「師団長らしいです、というわけで、第六師団兵からバレンタインデーのお返しです。」

「あ、あたしらしい…そう…ってお返し!!?」

が照れたような顔をするのも一瞬で、あっという間に驚きの顔へと変わる。
カンタビレは笑顔でうんと頷く。

「師団長、バレンタインデーの手作りチョコ有難う御座いました!」

すると、壇上の上にいるの真正面にチェレスタがいた。
は彼に振り向くと、彼の手には大きなラッピングされた箱を抱えていた。

「チェ、チェレスタ…??」

は壇上を降り、チェレスタに近付いた。
そして、彼が抱えていた箱をに渡される。
は戸惑いながらもありがとう、と呟いた。

「開けてみて下さい、師団長。」

鎧の所為であまり顔が見えない彼だったが、すごく笑顔だったと思う。
はうん…と呟きながら、ラッピングの紐を解いた。
チェレスタ達がラッピングしたのか、リボンが異様に硬く結ばれていた。
最初は焦ったが、何とか箱を開けるところまで着いた。

「…わぁ……。」

言葉が出ない。
思ってもいなかったからだ。

「…ワンピース…それにサンダルや…お菓子…。」

色々入っていた。
例えば、食べ物や文具、アクセサリーや洋服、様々なものが入っている。
は1つ1つに驚いていた。

「師団長、そのワンピースとサンダルを着て見てください。」

チェレスタはどういう根拠だったのか、にそう言った。
はえっ、と言葉を漏らしたまま硬直している。

「師団長、あそこに小部屋があるので着替えてきてください。」

カンタビレの誘いには目覚めると、いつのまにか小部屋とさっきもらった箱が隣にあった。
は驚いたように慌てて、さらに顔を赤く染める。

「ちょ、ちょっと待っ「それじゃ、着替えて来てくださいね。」

の否定にカンタビレは笑顔でスルーし、小部屋の扉を閉めた。
閉められドアに向って手を伸ばしている腕は呆気なく降ろされた。
そして頭を抱えたはワンピースを取り出して見た。

「(…着るしかないよね……。)」

どこか悔しい思いをしながら、は着替えることにした。









 ガラッと小部屋が開かれるのをずっと待っていた。
あまりにも彼女の普段着を見たことが無かった。
いや、ここにいるみんなそうだと思う。
そして、開かれた時には目も手も止まるような、想像が夢のような、というより今夢を見ているようだった。

「…き、着たよ…///」

「「「し、師団長…///」」」

ワンピースは純白でシンプルな素材だった。
シルクなのか艶が良く、サイズもぴったりだった。
またワンピースに合うように真っ白なシルクのミトンがあり、それを手に通していた。
サンダルは木の色のような自然らしい色で、ワンピースに合う感じだった。
少しヒールがあり、綺麗にを足を包んでいる。
はその格好のまま箱を抱え、壇上に上がった。

「に、似合う…?」

「「「似合います!!」」」

壇上に上がり、箱を下ろした後、どんどん熱が顔に上がるのに気付いた。
が顔を赤らめたまま尋ねると、兵達に即答された。
カンタビレに振り向けば、うんうんと頷いてくれる。

「ありがとう。」

いつもの優しい笑顔は、少し頬が赤く、誰もが心臓が高鳴るを感じた。
兵達もカンタビレも顔の赤みを抑えるのに必死だった。

「師団長、これは自分からです。」

カンタビレがに近付き、ラッピングされた袋から何かを出した。
すると、彼の掌の上に、綺麗にデザインされた髪飾りがあった。

「髪飾り…?」

「そうです。」

すると、彼は髪飾りを直接の頭に付け始めた。
は一瞬ビクと体が反応したが、大丈夫と言ったカンタビレの言葉に安心し、恥ずかしくて目を閉じていた。
やがて消え失せる気配に気付くと、は瞳を開けた。

「似合っていますよ、師団長。」

カンタビレが微笑んでに言った。
おそらくの顔は真っ赤になっているだろう。
大勢の部下の前で、大勢の仲間の前で、こんな恥ずかしいことを言われて顔を真っ赤にする奴がいない。

「…あ、ありがとう……///」

小さく呟いたその言葉は、カンタビレに届いた。
俯いているに心が惹かれるのを感じながら、兵達は微笑んで見守っていた。
そして、和んでいた雰囲気の演習場に1つの扉が開かれた。
それは思っていなかった人物達によるものだった。








 「はいますか?」

緑色の髪、微笑んでいる顔。
間違いなく、導師イオンだった。

「サ、!?うわ、綺麗…。」

イオンの傍にいて、くるくるした髪が特徴。
人形を背に抱えている、導師守護役のアニス。

、その服は一体…。」

巨体の体の持ち主で、鋭い眼差しはどこか優しい。
大きな鎌を抱えた、黒獅子ラルゴ。

「…なのか?」

赤く長い髪、鋭く見える緑色の瞳。
どこか不機嫌そうな、鮮血のアッシュ。

…可愛いです。」

ピンク色の長い髪、その手には大事そうな人形を抱えている。
一番小柄な、妖獣のアリエッタ。

「似合っているぞ、。」

ほのかな茶色の髪でするどい眼差しに、凛々しい髭と大きな剣。
七神将をまとめる、主席総長のヴァン。

思っていなかった人物の登場には顔を真っ赤にして驚き、カンタビレの後ろに隠れた。
兵達は敬礼を施し、カンタビレも敬礼を施す。
彼の後ろにいるは戸惑っている。

「…み、みんな…ど、どうして…??」

「今日はホワイトデーなので、にお返しをしにきたんです。」

「「そういうこと(だ)(です)(だな)」」

ハモらなくていいよ!をは思いつつ、あ、ありがとうと震えながら言う。
するとアリエッタはに近付き、の腕を取った。
そして、引っ張る。

「ア、アリエッタ…は、離して…恥ずかしいよ…///」

、出てきて…?」

アリエッタの潤んだ瞳には弱く、恥ずかしさの所為で顔を真っ赤にする。
迷った結果、親友の頼みには折れた。
握っていたカンタビレの服を離し、軽くごめんねと呟いた。
カンタビレは笑顔でいいえと呟いた。
アリエッタに連れられてみんなのところへと向った。

可愛い〜〜v」

着いた瞬間アニスに抱きしめられる。

「あ、アニス…///」

戸惑いながらはみんなに振り返った。








 「、これは私からだ。」

ヴァンが渡したのは紙袋に入っているお菓子のようだった。
銘柄がいいのか、高級感が漂っている。
その後、ラルゴ、アッシュ、アニス、イオン、アリエッタからも貰い、あっという間に手がプレゼントでいっぱいだった。

「みんなありがとう。」

そして、ラルゴからはディストに頼まれたということで、小さな包みが入っていた。
袋に“へ”と書かれている。
中は人形だった。
は嬉しくなって、その人形を抱きしめた。

。」

急に名を呼ばれたので振り返ると、アリエッタだった。
何?って尋ねると、アリエッタは人形を抱えて言った。

「その服…どうしたの?」

「あぁ…これね。」

は兵達に振り向き、笑顔を向ける。
これね…と零し微笑んだ、それはもう嬉しそうな笑顔でアリエッタに言った。

「これは…第六師団の皆から…あたしの大切な仲間から貰ったの。」









 夜。
はシンクの部屋へと向った。
シンクは今日外出任務から帰っていると報告があったので、顔を見せようと部屋へ尋ねた。
静かな夜は音1つ無い。
ドアをゆっくりノックし、反応を待った。

「どうぞ。」

中からシンクの声が聞えた。
嬉しくなって僅かに微笑み、ドアノブに手をかけ、部屋へと入った。

「シンク。」

呼んで見ると、書類整理をしていた彼―シンクがいた。
は笑顔で彼に近付き、お帰りと紡いだ。

「ただいま。」

素っ気無い返しだったが、満更ではないようだった。
動かしていたペンを止め、シンクは立ち上がった。

に渡したいものがあるんだけど、待ってて。」

「うん。」

シンクは自分のクローゼットへ足を運び、荷物から何かを探していた。
はその間にソファへと座り、待つことにした。
窓から見えた月は漆黒の夜に浮いていた。
優しくほんのり照らしている。
数秒経って、気配を感じると、シンクがの隣に座っていた。

「これ。」

シンクが渡したのは小さな包み。
は受け取ると、開けてもいい?と尋ねた。
シンクが頷いたのが分かると、は袋のリボンを外し始めた。

「あっ…。」

中身はブレスレットだった。
シンプルな素材に1箇所だけ、四角い板のような銀板があった。
表にはデザインが彫られていたが、よく見ると裏に何か書かれてある。

「…シンク、これ裏に…。」

パッとシンクに見せると、シンクに取り上げられる。

「シンク?」

「いいから黙っててよ。」

すると、シンクはの左腕を取る。
シンクはの左に座っていたので、自然に取り易かった。
の手首にさっきあげたブレスレットをに取り付ける。

「わ…シンク、ありがとう。」

「どういたしまして。」

仮面を外し、シンクは自分の左手首を出した。
グローブの下に隠されてあったのはと同じブレスレット。

「シンクも…?」

「まぁね。お揃いってやつだよ。」

はクスと笑みを零すとシンクに近寄った。
体がくっつくようなぐらいで座っていると、あっ、とは零した。

「これの裏って何が書いてあるの?」

さっきのブレスレットの銀板の裏。
何か書いてあるのは確認したが、まだ何が書いてあるのが確認していない。
は銀板を捲り、文字を読む…。

「…これって、シンクとあたしの…!!」

続きを言う前に言えなくなった。
というより、口を塞がれたと言った方がいいだろう。
目の前にはシンクの顔。
唇に伝わる温もり。
その温もりが消えうせると同時にシンクは言った。

「僕達の名前さ。何か文句ある?」

冷たく言う口元はどこか緩んでいて、少しシンクの顔が赤かった。
自分でも分かっているだろう、恥ずかしいということが。

「文句なんてありませーん。」

は嬉しくなってシンクに抱きついた。
態度は冷たいけど、中身は優しくてちゃんと包んでくれるところに惹かれてしまう。
いつもいつも、惹かれっぱなしでどうしようなんて思いつつ、抱きしめてくれるその温もりを感じていた。

そんな微笑ましい2人を知っているのは、窓から照らす漆黒の夜に浮かぶ月だけ。
月の光は心地良く、2人を照らしていた。
果てしない夜空に星々と月が浮かび、ほのかな風が揺れ、綺麗な夜を2人で過ごした。
どこかホワイトデーに感謝をしながら。






            〜fin〜


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この作品は虹色の煌き』の洸歌様が書かれたフリー配布の夢小説でございます。
とても素敵な作品ですが、ここから持ち帰ったりは絶対にしないでくださいね。

洸歌様、転載許可どうもありがとうございました!