孤独と静寂
「まったく、なんでボクが・・・」
会議の場所にいつまでたっても現れないアリエッタ。
そこらへんにいた兵に呼びにいかせたけれど、どこにいるのか分からないと半泣きになりながら戻ってきた。
わかったのは部屋や彼女がよくいる場所にはいないということだけ。
仕方なく手分けして探すことになったのだけれど、アリエッタのいる場所なんて見当もつかなかった。
自室か、木の側か、花畑。
よくいるのはその辺で、あとは食堂や鍛錬場くらいでしか見かけない。
けれどその辺はとっくに兵たちが探した後で、そこにアリエッタの姿は無かった。
いったいどこにいるんだ・・・?
あいつの頭の中なんて、大好きなイオン様でいっぱいのはず・・
イオン関連の場所か・・・?
だがイオンの自室ということはない。
あそこの主は今不在だし、何より守護役を解任されたアリエッタに入る資格はない。
他にイオンがかかわる場所なんてあっただろうか・・・
イオン・・・イオン・・と考えていくと、ふと一つの場所に思い至った。
そこにアリエッタがいるという確信はなかった。
だけどボクは走った。
そこにいるような気がしたんだ。
ボクにとっては近寄りたくもない
あの教会へ・・・・
礼拝堂の中には珍しくだれもいなかった。
・・・いや、人はいた。
パッと見だと見落としてしまいそうな最奥の第七譜石の隣にピンク色が見えた。
よく見るとアリエッタが譜石にもたれかかるようにして眠っていた。
どうりでみつからないわけだ・・・・
こんなところにいるとは思わないだろうし、座り込んでいるからただでさえ小さなアリエッタは余計に低い位置にいる。
丁度目線に入るか入らないかのギリギリ。
これでは見つけられなくても仕方がない。
見つからなかった理由に納得しながら、アリエッタを起こす為に近づく。
「アリエッタ、おきなよ。」
声をかけながら軽く肩をゆする。
だけどアリエッタは軽くうなり声を上げるだけ。
しかたなくもう少し強くゆすりながら呼びかけた。
「アリエッ「うん〜・・イオン・・様・・・」
ボクは思わず手を止めてしまった。
そうするとアリエッタはまた眠りの世界へ沈んでいく。
だけど、ボクにはそれを“止める”という行動さえ出来なかった。
それだけアリエッタの言葉は衝撃的だったんだ。
いつだってイオンはボクの邪魔ばかりする。
ボクはイオンの代わりで、だけどイオンになれなかったもの・・・・
イオンと同じ顔、同じ声・・・だけどボクはイオンじゃない。
七番目はイオンになった。
だけどイオンはイオンであって、イオンではない。
あのイオンであっても、イオンにはなれなかった。
カンの良いやつならわかってしまうだろうその違い。
だけど気づかないやつが多すぎた。
イオンがイオンでないなどと、疑うものが少なすぎた。
ほとんど誰もいなくて、なんとか気づいた小さな異変さえも誰もが気のせいだと見逃した。
一番近くにいたアリエッタでさえも・・・・・
イオンを妄信的に信じることによって、イオンを疑うことが出来なかった。
そのせいで傷ついて、涙を流す。
アリエッタは区別できていなくて、
イオンでも七番目でもボクでも、他の捨てられたレプリカたちでも・・・
“イオン”として存在するのなら誰でもいいように見える。
「アホらし・・・」
この茶番劇が
騙される人々が
そして、こんなことを考える自分が何よりも・・・・
この場所にボクは一人ではないけれど、ボクはどこまでも独りだった。
アリエッタの頬を伝った涙をボクは冷めた目で見つめることしか出来なかった。
眠り続けるアリエッタ。
夢のなかでも、現実でも、イオンを求め続ける少女。
真実を見ることなく、過去にすがり続ける少女。
そんな彼女を見つめるボク。
音を立てるものがいない礼拝堂。
聞こえるのはかすかな鼓動と呼吸の音だけ。
どこまでも広がる静寂がボクを包み込んだ。
ボクがイオンになれていたらキミはボクを求めてくれた?