「お帰りなさいませ、ルーク様」
旅の途中、家に寄った俺たちを出迎えたのはメイドたちだった。
玄関にずらりと並んだ彼女たちは、決められたとおりにこやかにお辞儀をしていた。
けれど、その笑顔は誰が見ても分かるほどに引きつっていた。
メイド長とされ、ルークの世話をずっとしてきてくれていた女性でさえも、必死で笑みを浮かべようとして失敗してしまっている。
しかたないよな・・・。俺がルークじゃないから・・・・
俺はレプリカで、皆が望んでいたオリジナルじゃなくて・・・
散々わがままほうだいで迷惑をかけておいて、今更偽者でした、なんていわれても納得なんて出来なくて当然なんだ。
追い出してしまいたいのかもしれない。
だけど、彼女たちは使用人。
本物でなかったとしても、母上と父上が受け入れたなら、一応は主人として仕えなくてはならない。
いっそ追い出してくれればいいのに・・・・
その方が俺にも、彼らにもいいはずなのに。
皆我慢して、表面上を取り繕っている。
そんなものに、いったい何の意味がある・・・?
「ルーク、あんまり考えすぎるなよ。」
俺の様子に気づいたのか、ガイはそんな言葉をかけてくれた。
考え込みすぎるのも、よくないって分かってる。
だけど、考えずにはいられないんだ。
俺がいなかったら、アッシュは今もここにいたんだろうなって。
彼女たちも、こんな風に苦しまなくて良かったのに・・・
そう思いながら顔を上げる。
すると、一人の女性に目がとまった。
なんで・・・・?
彼女の微笑みは、引きつってなんていなかった。
心からのものとわかるもの。
真実を知らぬはずなど無いのに、それでも彼女は微笑を浮かべていた。
考え込んで深みにはまっていた俺の意識が浮上してくると、困った顔で俺を見る彼女の姿が目の前にあった。
「ルーク、手、離してあげなよ」
ガイに言われてやっと俺が彼女を引き止めていたことに気づいた。
いつの間にか、ここには俺たちと彼女の姿しかなかった。
「ご、ごめん」
あわてて手を離すと、彼女は驚いた表情でかたまった。
・・・・俺が謝るってのはそんなにもありえないことなのか?!
さんざんからかわれた俺を助けてくれたのは彼女だった。
たぶん・・・・というか絶対に俺のためじゃないだろうけど。
引き止めた理由を聞かれたけれど、それは俺にもよく分からなかった。
ただ無意識に求めていたんだ。
そう、たぶん・・・俺は答えを知りたかっただけなんだ。
彼女が微笑みをくれるそのわけを、俺はどうしても知りたかった。
過去は変わらない
彼女が告げた言葉は俺の心にずっしりと重くのしかかった。
アクゼリュスのことも、変わりはしない。
そう言われているようで(実際変えることは出来ないのだけれど・・)苦しかった。
だけど彼女はこうも言ったんだ。
俺は俺だ、ってこと。
卑屈にならないで、堂々としてろって。
復讐してもかえってこない。
そんな当たり前のことを、当然のように出来る彼女。
正直すごいなって思った。
もしも俺が大切な人をなくした立場だとしたら、復讐に走る心をとめることなんてできないだろうなって思う。
俺はきっと彼女のように強くはあれない。
逆の立場である今でさえも、俺は乗り越えることが出来ないんだから・・・・・
仕事があるからといって走って去った彼女の様子は、なんだか少し変だった。
まともに話したこともないけれど、そんなおれですら分かってしまうほど顕著な変化。
聞かれたくない
まるでそう言っているかのようで、なんだか無性に気になったんだ。
当然のことながら俺だけではなく、皆彼女のおかしさに気づいていた。
その中でもジェイドは特に表情を曇らせていた。
「大佐〜?どうかしたんですか〜?」
「いえ・・・。ただ、恨む心を晴らす方法は、仇を討つことだけではないな、と思っただけですよ。」
「それってどういうことですの・・・?」
俺たちにはジェイドの言っていることが分からなかった。
ジェイドもそれ以上は何も教えてくれない。
いつものようにあいまいにごまかして、俺たちを翻弄する。
そんな様子に、俺はますます気になった。
ジェイドがそんな風にごまかすときは、大抵いつもとても大切なことで、彼自身も確信を持っているわけではないときだけだから・・。
彼女・・・は一体何を抱えて生きているんだろう・・・
何を隠してその心を傷つけているんだろうか・・・・
今の俺には何も分からないけれど、それでもいつか知りたいと思う。
奇しくも彼女は言ってくれたのだ。
俺はここにいてもいいんだってこと、俺らしくあればいいのだということを・・・・
だから俺は俺らしく生きていきたい。
今はまだたくさんのすれ違いがあるし、わだかまりもある。
母上と父上に伝えていない言葉もたくさんある。
少しずつでもいいから、俺はそれをなくしていきたい。
できればアッシュを母上と父上に会わせたいし、彼が望むならここで一緒に暮らしたい。
まだまだ世界の為にしなくてはいけないこともあるし、アクゼリュスのこともある。
やらなきゃいけないことはそれこそ山積み。
だけど、もしも俺が俺であることになんの戸惑いも、迷いも持たなくなれたなら・・
俺は彼女に伝えたい。
ありがとう
たった五文字のその言葉を。
そして彼女が暗い過去を背負っているのなら、俺は闇を照らす光になりたい。
彼女がくれた光のように、俺も彼女に灯りを送りたい。
聖なる焔の光
その名に負けぬ、立派な光を
に、送りたい・・・・・・・
