六神将のお仕事









「お前たちの今日の任務はコレだ。」



珍しく召集をかけられたそこで、ヴァンは至極真面目な顔で任務を言い渡した。
いそいそと差し出されるブツ。
それを見て、六神将たちは互いに顔を見合わせた。
そしてアイコンタクトを交わすと一斉にこう言った。




「「「ふざけるのもいいかげんにしろ/してください/して・・/したら」」」
「ふ、ふざけてなどいないぞ?!お前たちの今日の任務はコレなのだ。」



ふざけんじゃねぇよと告げる六神将たちに少々おびえつつも、そこはさすがに彼らをまとめる総長。
ビシッと・・・ではないが、任務をもう一度告げた。
だがしかし、そこはおとなしく言うとおりにするような者達ではなかった。




「バカ言ってんじゃねぇぞ!!なんで任務でビーズセットがでてくるんだよ!!」



そう、ヴァンが差し出したのは綺麗に光り輝くビーズたち。
どこからどう見てもごく普通のもので、それがどう任務と繋がるのかがわからない代物だった。





「ボクらをバカにしてるわけ?」
「コレはさすがにないだろう・・・」
「閣下、何かと間違えてはいらっしゃいませんか?」
「あなたもどうやらもう年のようですねぇ」
「総長・・・ボケちゃったの・・?」



普段は庇ってくれるはずのリグレットさえも、今回ばかりはフォローの仕様が無かった。
そんなみんなのキツイ一言に痛烈なダメージを受けたヴァンだったけれど、しっかりと6人を見据えた。



「金がないんだ。」

「「「「はぁ?」」」」



深刻そうな顔で告げられても、彼らに気の抜けた返事しか返せなかった。
そんな返答がくるとは思ってもいなかったのだ。
ヴァンの言葉をきちんと認識するのに数秒はかかったことだろう。



「あれだけ安月給で働かせておいて、なんでお金がないとかいうわけ?」
「「「「一体どんな無駄遣いをしたんだ/したんですか!!」」」」
「だからあれほど計画的に、と申しあげたのに・・・」



寄付金やキムラスカ・マルクト両国との三角貿易による収益などなど、収益はほぼ例年通りあるはずである。
そして彼らがもらっている給料はその働きに見合っているとは思えない、すずめの涙程度のもの・・・
とてもお金が不足するようには思えなかった。
けれど次のヴァンの言葉に皆なにも言えなくなってしまうのである。




「アンチフォンスロット・・」



一個作るだけで小国の国家予算にも匹敵するといわれるそれ・・・タルタロス襲撃のさいに使用されたはずだ。
=小国の国家予算分の支払いがされている。
それだけで十分に赤字だ。
けれどヴァンの言葉はそれだけにとどまらなかった。

「・・誰かさんたちの研究費、誰かさんたちの衣装代、誰かさんたちの食費、誰か「だぁぁ!!もう金が無いのは分かったからそれ以上いうのはやめろ!」」



食費は教団が払うことになっているし、彼らが着ている服も私服以外は全て教団からの支給品だ。
また研究費も教団が支払っている。
ディストのあの役に立つんだかたたないんだかわからない趣味の産物たちも、全て教団の資金から生み出されているのだ。
今年は特に聖なる炎の光一行のおかげでカイザーディストなんちゃらが大量に壊されている。
改良すればさらに高くついているはずだからきっと恐ろしい額に達しているのだろう。
それでなくてもアリエッタの魔物(彼女いわくお友達)の食費はものすごくかさむ。
なんたって肉食獣ばかりで、しかもなかなかにいい体系のものたちばかり・・・・日に何tとかそういう世界だ。
はっきり言って人間よりもよっぽどかお金がかかっていそうで怖い。








「そういうわけだからしっかり内職して稼ぐように。
・・説明をしておきたいのはやまやまだが私はこれから任務で遠方に行かねばならん。見本を見ながら作ってくれ。」




そう言うと彼らの返事も聞かずにさっさと部屋を出て行ってしまった。
残されたのはどこか放心状態の六神将とビーズセット。
ちゃんと工具まで用意されているところが妙に憎たらしい。
これで道具がないからできませんでした、は通用しなくなってしまったのだ。
見本もあるのだから適当に作るというわけにもいかないし、これでサボるとたぶん確実に今月の給料がなくなる。










「・・作るしかないようだな」



ラルゴは覚悟を決めてビーズセットと見本とにらめっこを始めた。
そしてしばらくしてからいそいそと作り始める。
・・・はっきり言ってめちゃくちゃ似合わない。
あのでかい図体でこまごまとしたビーズ細工。
笑いを狙ってるとしか思えない。


皆なるべくそちらを見ないようにしながら考え込んでいると、リグレットが立ち上がり扉へと手をかけた。




「おい、どこにいくんだ」
「私は閣下の補佐が仕事だからな。・・・閣下とともに任務にいってくる。」



しれっといいのけるリグレットに思わずそのまま見送りそうになってしまうが、アッシュはすかさずその腕を掴んで止めた。
・・いや、正確にいえば止めようとした、だ。
手を伸ばした瞬間、無言で黒光りする2丁の譜業銃を向けられたのだ。
もちろんセーフティーもしっかりはずしてある。
「なにか文句でも?」という意思が伝わってくるそれに、立ち向かえるものはだれもいなかった。
結局誰も止めることが出来ずにリグレットはヴァンの後を追って任務へと出かけて行ってしまった。











「ばかばかしい・・・」



しばらくしてから、シンクもそう言って部屋を出て行こうとした。
すると今度はディストがそれに声をかけた。



「あなたまで逃げるなんて許しませんよ!!」



譜業イスでシンクの元に近寄りながら、そう声を荒げた。
リグレットに続いてシンクにまで逃げられると、自分の仕事が確実に増える。
ヴァンの残したメモには本日のノルマが書かれていて、6人で600個つくれ、ということだった。
単純に一人100個計算なのだが、リグレットが抜けた今一人あたり120個。
20個も余分に作る羽目になったのだ。これ以上増やされてはたまったものではない。



「あのさ、普段散々こき使っといてこんなくだらないことでもボクを働かせる気なわけ?
言われたことやるだけのお前等とちがってボクは作戦とか全部考えないといけないんだよ?たまには休ませてよね。
それともなに?今日からディストが作戦立ててくれるわけ?当然ボクのよりもすばらしいものが考え付くんだよね?だいたいさ・・・・・・」




シンクの毒舌に口で勝てるはずもなく、あっさり見逃す結果になってしまった。



「キィィィ!!あの生意気小僧め!復讐日記につけておきますからね!!」

と地団駄をふんで叫ぶも、当の本人はとっくに部屋を出て行った後である。
負け犬の遠吠え・・・かなり虚しすぎる。








「仕方がない、俺たち4人でやるしかないか・・」
「アリエッタ、やりたくない・・です」
「任務なんだ、我慢しろ」




ついに観念したアッシュも渋るアリエッタを説得してビーズ製作に突入した。
それを見たディストもしぶしぶビーズセットを広げる。
そう、4人で黙々と作っていくはずだったのだ。
一人150個つくれば良かったはずなのだ。
けれど人生なにが起こるかわからない。
ほぼ無音に近い状態のその部屋に、突然の乱入者が現れた。




「ウガァァァ」



ガッシャーン




「「あぁぁ!!」」





なんとアリエッタのお友達の一人(?)ライガがやってきて、アリエッタのほうへ突撃してきたのである。
べろべろと彼女の顔を舐める光景は、普段ならなにも問題はなかった。
しかし、今はビーズを扱っていたわけで・・・
当然のことながらアリエッタの前に広がっていたビーズセットをライガが全て蹴倒してしまい床にビーズが散らばってしまった。
しかものっしのっしと動き回るものだからパキパキと嫌な音まで響いている。
結果、アリエッタに用意されていたビーズのほとんどがバキバキに壊されてしまった。




「アリエッタ!こいつをこの部屋からだせ!!」
「この子はお昼寝の時間にこないアリエッタを、心配してきてくれた・・です。アリエッタが一緒でないと戻りません・・」


「〜〜〜〜〜〜〜っ」





これ以上ライガにいられるとさらに被害が広がりそうだし、かといってこれ以上人手を減らしたくもない・・・
どうするべきかと悩むアッシュだったが、ライガがまた移動を始めようとしたのを見て思わず叫んでいた。




「アリエッタはもういいからそいつと部屋にいってろ!!」
「了解・・です」




それはもううれしそうにライガと部屋を出て行くアリエッタ。
部屋から出られなかった彼らは、よくやった・・です・・。とアリエッタがライガを褒めていたのを、幸か不幸か目撃できなかった。













「キィィィ!!何で私がこんなことを・・・!これも全て自分勝手なあいつ等のせいです!!ブツブツブツブツ・・・」
「お前はもう少し静かにやれねぇのかよ!ブツブツうるせぇんだよ!!」
「なんですってー?!だいたい貴方があのときリグレットを止めれていればこんなことにはならなかったんですよ!!」
「あいつを止められるやつがいるなら見ていみてぇよ!お前だってシンクを止められなかったじゃねぇかよ!!」
「シンクに口で勝てるわけが無いじゃないですか!!無駄に口が達者なんですから!!」




お前のせいだ、いーや貴方が悪い・・・
しょうもない言い争いを続けるアッシュとディスト。
その間もちゃっかり手は動いているのだからさすがというか、生真面目というか・・・




「お前たち、いい加減にしないか。」



さすがにうるさくなってきた二人を止めたのは、それまでもくもくと作り続けていたラルゴだった。
そんな彼の前には山盛りになった完成品の数々があった。




「ら、ラルゴ・・」
「あ、あなたが全部作ったんですか、それ・・・」




あまりのミスマッチさ加減に言い争いも止まり、思わず頬が引きつる二人。
それに対してラルゴはとってもさわやかに返した。




「あぁ、これで俺のノルマは終わりだ。やってみるとなかなか楽しかったぞ。」


「「もう200個つくったのか(つくったんですか)?!」」
「お前たちと違ってしゃべりながらやってなかったからな。ノルマも終わったことだし、俺はこれで失礼するぞ。」




至極あっさりと告げて去っていくラルゴを、二人はただ見送るしかなかった。
そのあと二人で競い合いながら何とかノルマの個数に達したときには、もう夜が明けていたとか、いなかったとか・・・・






























おまけ







「皆よくがんばったな。あの内職のおかげでなんとか給料が出せることになった。これが今月の分だ」




そう言って手渡されていく給料袋。
だがしかし、なにやらいつもより薄い気がする。



「おいヴァン!!なんで給料減ってんだよ!」



中身を確認して、いつもより確実に少ないその金額にアッシュが文句を言う。
それに続いたのはディストだった。
彼もどうやら少なかったらしい。
ところが、一番最初に突っかかりそうなシンクのところからはその言葉がでてこない。
不思議に思って彼のを覗いてみると・・・




「なんであなたは減ってないんです?!」



そう、なんと下がっていたのはアッシュとディストだけ。
他のメンバーはいつもどおりだったのだ。



「どういうことなんだよ!」
「すまんな、お前たちの分が足りなかったんだ。」



こともなげに言い切るヴァンに思わず殴りたい衝動に駆られた。
減らすとしても、なぜ真面目に内職していた自分たちなのだ。
サボったあの三人のところから減らせばいいものを!!!!!




「・・?何を言っているんだ?」



サボり組みから給料を差っ引けという二人に、ヴァンは不思議そうな顔をした。
まるで、何をいっているのかわからないという感じの様子にさすがにおかしさを感じた。



「サボリ・・?お前等何いってんのさ?ボクらがサボるわけないだろ」
「二人とも・・ひどい・・です」
「私とて任務は遂行している。サボってなどおらんわ。」







「「嘘を・・いえなんでもありません・・・」」



嘘を言うな、と言おうとしたけれど、その無言の圧力に負けた。
頼みの綱のラルゴでさえも




「アリエッタを部屋から出したのはアッシュだろう?何を今更文句をいっているんだ」




と二人を助けてくれなかった。
どうやら熱中しすぎていてリグレット、シンクとのやり取りを聞いていなかったらしい。
アリエッタのときはさすがにライガが暴れたので気づいていたらしいが、彼女はアッシュが「もういいからでていろ」といってしまったのでサボリとは認識されていなかった。



結果、彼らの味方は一人としておらず、またシンク・リグレットの最強タッグに勝てるはずもなく、二人の給料が増えることはなかった。




















そんな彼らに、まさか来月も同じような災難が降りかかることになるとは・・・誰も予想できなかった・・・・。

















END