「あっ・・・!!」
話しながら歩いていた僕は、前から歩いて来た女性とぶつかってしまった。
後ろにぐらりとよろけ、倒れる・・・と理解はしても体がついてきてくれなかった。
こういうときは鍛えていないからだが恨めしい。
ルークたちならきっと体制を立て直せるだろうに・・・・
・・あれ・・?
いつまでたっても固い床に打ち付けられる感覚が来なかった。
「大丈夫ですか・・?」
至近距離から声が聞こえて、閉じてしまっていた目を開いた。
僕はその方に支えられていた。
彼女のおかげで転ばずにすんだようだ。
「イオン様!!」
アニスたちが僕に心配そうな顔をして駆け寄ってきた。
僕は安心させるようにやわらかく微笑んだ。
「大丈夫です。彼女のおかげで怪我もしなくてすみました。」
その言葉にほっと一息ついたアニス。
それを微笑ましく思いながら、助けてくれた女性へと向き直った。
「ありがとうございました。あなたのおかげで怪我もせずにすみました。・・・・?」
お礼の言葉を言いながら、僕は不思議な感覚を味わっていた。
懐かしい
あったことも無いはずなのに、そんな風に思えたのだ。
ずっと一緒にいたのではないかと勘違いしてしまいそうになるほどに・・・・
彼女はいったい何者なんだろう。
そんな当たり前の考えにもいたらないほどに、僕は混乱していた。
そんなことさえ気にならないくらい、温かく思えたのだ。
思わず涙がこぼれそうになった。
泣きたいわけではなかった。
でも僕の目は自然と潤んできてしまう。
まるでずっと離れ離れになっていた大切な人に会えたかのように・・
「あの・・・「大丈夫ならいいのですイオン様。それでは私はこの辺で失礼させていただきます。」
「イオン様の進む道に幸多からんことを・・・」
そんな言葉を残して彼女は去っていってしまった。
その後姿が小さくなっていくのを見ると、僕は無性に切なくなってくる。
いかないでください!!
心の奥底で僕は叫んだ。
今すぐにでも追いかけていきたい。
だけどそうすることはできなくて・・・
ルークたちが僕に声をかけてきたのをきっかけに彼女とは逆方向へと歩き出した。
「あっ・・・」
そういえば彼女の名前は何だったんだろう。
聞くタイミングを逃した僕は、一生それを知ることは無かった。