チョコと君と僕と、追いかけてくる仲間達
シルフデーカン・ノーム・13の日。
今日、神託の盾騎士団の厨房は第六師団が占領借りていた。
日にちを見れば分かるだろうか、明日はシルフデーカン・レム・14の日。
このオールドラントに共通する行事が行われるのである。
そう、聖バレンタインデーだ。
「カンタビレー。ココアパウダー貸してー。」
「はい、師団長。ココアパウダーです。」
「ありがとう。」
第六師団師団長のと副官のカンタビレだ。
明日はバレンタインデーということで、日ごろ頑張っている第六師団兵のみんなに手作りチョコを上げようと企画したのだ。
「師団長、こちらの準備OKです!」
第六師団兵のチェレスタからのサインが聞えた。
は溶かしたチョコを持って、チェレスタのところに行く。
「はーい、チョコ入れるよー。」
型に入っているストロベリーチョコが固まり、今、ミルクチョコレートがその上に入れられる。
そして飾りを入れて冷蔵庫に入れられる。
そういえば…、先ほど第六師団兵にあげるといったが、第六師団兵は約8000人もいる。
さすがに2人で作るのは大変なので、上級兵第3班A部隊、チェレスタを含む10人に手伝ってもらっている。
「師団長、ラッピング完了です!」
「りょうかーい。」
明日配るために今日作っているのだが、やっぱ8000個とは大変だ。
冷蔵庫もの部屋と、カンタビレの部屋とチェレスタの部屋や他の兵の部屋の冷蔵庫を使っているので本当に忙しい。
ラッピングが完了した物から各部屋の冷蔵庫に運びに行くのだ。
ある意味、トレーニングになったりする。
(それで、トレーニング任務を減らしてもらうという…兵達の要望はにかわされる。)
しばらくして、ラストのラッピングになった。
「こうしてと…よし、出来たー!!」
「「お疲れ様です!!」」
の最後のラッピングで無事、第六師団兵にあげるチョコが出来た。
「本当にみんなありがとう。明日、みんなにも上げるから今日は解散ね。」
の言葉がかかると、兵達は敬礼してお疲れ様でした、と紡ぐ。
そしてある程度の片づけをしながら厨房を出て行った。
「カンタビレもチェレスタもありがとう。昨日から手伝ってもらってごめんね。」
そう、実は昨日の朝からずっと作っていたのである。
この2日間でよく8000個も作る元気があるとつくづく思う。
「いいえ。師団長、お疲れ様でした!」
チェレスタが敬礼して、厨房を出て行った。
カンタビレはその後姿を見送ると、に言う。
「お疲れ様、。」
そう言っての頭を撫でる。
相変わらず大きな手だ。
「お疲れ様、カンタビレ。」
そう呟くとは疲れているはずなのに笑顔だった。
やっぱ強いな、なんて思ったがあえて言わない。
「でも、まだ作るんだろ?」
「えっ、何で知ってるの?」
カンタビレの急な言葉には驚いた。
行動が読まれた瞬間だった。
「だって、チョコはまだあるし、ラッピングもまだある。おまけに8000人分といってもチェレスタ達の分を引いた数。
それに導師イオンや守護導師役のアニス奏長、七神将や総長、あと恋人には自分で作る気なんだろ?」
「そう、ちゃんと自分が作らないとなって思って、…チェレスタ達やアリエッタ達、
総長やイオン様、アニスにも、恋人も…ってええっっ!!?」
は顔を真っ赤にしてカンタビレを見上げるが、カンタビレはにっこり笑う。
図星だな、なんてカンタビレは思った。
「は恋人にあげないのか?あの…参謀総長のs「あーあー!!カンタビレ、今日はありがとう!
明日は皆に集会場に朝9時集合って伝えといて!!よろしく!!」
無理矢理声を上げて続きの言葉を言わせないようにして、厨房からカンタビレを出させる。
「それじゃ、よろしくね!!」
カンタビレを厨房から出して、ドアをバタンと閉める。
厨房から出されたカンタビレはクスと笑う。
「(って可愛いな…。さて、兵達のとこに行くか。)」
そう思って歩き出す。
明日はどうなるんだろうな、なんて思いながら。
「はぁ…カンタビレの馬鹿…///」
未だに顔の赤みがあるは呟きながらチョコを作っていた。
丁寧に作っていくトリュフやチョコ、そして飾りやラッピング。
お菓子作りは嫌いではないので、スムーズに進んでいく。
数時間が経過した。
は食器の片付けに入っており、テーブルの上には綺麗ラッピングされたチョコがあった。
その後、厨房室を掃除し、ラッピングしたチョコを持ってその場を出た。
明日はいよいよバレンタインデー。
もうあと2時間で明日を迎える時間だった。
シルフデーカン・レム・14の日。
朝から大きな袋に兵達に上げるチョコを荷台に積む。
そして、9:00になった。
師団長とカンタビレがなかなか現れないので兵達は不審に思った。
すると、バンと扉が開かれ、荷台を引くとカンタビレの姿があった。
荷台を止めて、壇上に上がりいつもの笑顔を向ける。
「「おはよう御座います!!師団長。」」
第六師団兵はいつものように挨拶をする。
も笑顔で挨拶を交わす。
「おはよう、みんな。さて、今日は特に任務は無いです。だけど、今日はみんなにプレゼントがあります。」
そう言って、カンタビレは荷台を引いての傍に寄った。
「今日はバレンタインデーなので、みんなにチョコを作ってきました。」
その瞬間、兵達は「おっしゃー」と声を上げる者や嬉々に思ってガッツポーズする者がいた。
普段任務や訓練をしている彼らに女性との交流はあまり無いからである。
そんな兵達を可愛く思いながら、は上げる準備をしながら言う。
「これはカンタビレや上級兵第3班A部隊の10人も手伝ってくれたから、感謝してね。
…よし、昨日手伝ってくれた兵から上げるよー。」
一瞬、沈黙になったが気にしない。
そう告げると、はチェレスタ達用に作ったチョコを取り出す。
「昨日の作業を手伝ってくれた10名、前に来て下さい。」
は前に来た兵達にチョコを渡す。
それは昨日一緒に作っていたラッピングとは違った物だった。
「師団長、これは…?」
兵達も見たことの無いラッピングを不審に思った。
は笑顔でうんと頷く。
「それは昨日のお礼。特別に作ったから、不味かったらごめんね。」
「有難う御座います!」
兵達は喜んでいた。
やはり、人に喜んでもらったら一生懸命作った甲斐がある。
はますます喜ぶ兵の姿に目を細めた。
「はい。じゃ、次は上級兵から班順に来て。」
そう言っては手渡しで1人ずつ兵に渡した。
兵は有難う御座います、と嬉々に溢れている声でに紡ぐ。
全てを渡すだけでもかなり時間がかかったが、無事に渡すことが出来た。
中身はトリュフやカップチョコなど小さいが確かに手作りだと思えるような物だった。
カップチョコには甘いストロベリーチョコやホワイトチョコ、少し大人なビターなど色々な味があった。
それらが3つくらいあって、ちゃんとラッピングもされている。
忙しかったのに、大変だったはずだろうに、あんな笑顔を向けるはとても強かった。
「それじゃ、ハッピーバレンタインデー!これにて解散!」
そう叫んで今日の集まりは終わった。
帰り際、兵達は嬉しそうな声を上げていた。
顔は見えないが、きっと笑顔だろう。
ある程度兵達が帰っていくのを見計らって、片づけをしていたカンタビレには近づく。
「カンタビレ。」
そう呼ぶと、カンタビレはに振り向いた。
カンタビレに見えないように、背中側にある手の中には兵とは少し違ったラッピングされたプレゼントがあった。
「師団長…いや、、荷台置いて来たよ。」
2人きりの時は敬語無し、これが彼らの約束。
は笑顔でうん、と頷くと手にあったものをカンタビレに渡す。
「はい。これ、カンタビレにあげる。」
手に受け取ったカンタビレはぽかんとしていた。
は頭を傾けると、彼の名を呼ぶ。
「カンタビレ?」
「(…からかったから貰えないと思ってた…)あっ、はい。」
の声に目を覚ましたかのように返事をする。
「カンタビレ、どうかしたの?」
「いいや…どうも有難う。」
そう言っての頭を撫でた。
そういえば、バレンタインデーにチョコを貰ったなんて久しぶりな気がした。
でも、まぁ…悪くはないからな。
「…はこれから他の人にもあげるのか?」
の頭からカンタビレの手が離れると、カンタビレはに尋ねる。
うん、と頷くにカンタビレは一瞬にっこり微笑む。
「というと…総長は事務室にいるし、第四師団長も一緒だ。第一師団長は今日、任務無いから、部屋だと思うし、
第二師団長は今日も部屋で譜業に努めていると思うな。第三師団長はもうまもなく任務から帰ってくると聞いた。
特務師団長も任務が無いから部屋だと思うし、導師イオンと導師守護役のアニス奏長は導師の部屋だろう、肝心の参謀総長は…、
演習場にいると聞いた。」
「あの、どこからそんな情報聞いたの?(一部分、強調してなかった?)」
「まぁ、色々(笑)それじゃ俺もこれにて。チョコありがとな!」
そう言いながら手を振ってカンタビレは出て行こうとする。
はカンタビレの行動に頭を抱えながら、その場にいた。
「!」
ふと、カンタビレが自分の名を呼ばれたので顔を上げると、手を上げているカンタビレの姿があった。
そして、大きな声でに叫ぶ。
「参謀総長様とごゆっくりー!」
その瞬間、は顔を真っ赤にしてカンタビレに向って叫んだ。
「//カンタビレの馬鹿ー!」
そう叫ぶと、カンタビレはにっこり笑って集会場を出て行った。
はもう…と呟きながら、その場を去った。
総長の事務室には向った。
コンコンとノックすると、入れと声が聞えた。
「失礼します。」
そう言って入ると、カンタビレの言っていたとおり、ヴァンとリグレットがいた。
「(本当にいた…。)総長、バレンタインのチョコです。リグレットにも…はい。」
そう言って2人に渡した。
やっぱり兵達に上げたものとは少し違うラッピング。
「フム…、ありがとう。」
総長も満更ではないようだった。
は笑顔ではい、と答えた。
「、ありがとう。これは私からだ。」
すると、リグレットからチョコを貰った。
は見る見るうちに笑顔になり、リグレットにありがとうと言って抱きついた。
「ありがとね、リグレット。それでは、総長、これにて失礼します。」
そう紡いでは部屋を出た。
その後、リグレットがヴァンにチョコを上げたという話は後から知ることになった。
次にはラルゴの部屋に向った。
コンコン…
ラルゴの部屋の前。
カンタビレの情報が正しいなら、ラルゴは部屋にいるはず。
「入れ。」
その声は間違いなくラルゴの声で、はまたも驚くはめになった。
「(本当にいるよ…。)お邪魔しまーす。」
ドアを開けると、書類に手をつけているラルゴの姿があった。
ラルゴはの姿を見つけると、「おお、か。」と零す。
「ラルゴ、ごめんね。仕事中に…。」
呟きながら紙袋からチョコレートを取り出す。
「はい、ラルゴ!」
は綺麗にラッピングされたチョコレートを差し出した。
ラルゴは椅子から立ち上がり、それを受け取る。
「そうか、今日はバレンタインデーか。ありがとう…。」
見上げるほど大きいラルゴはその手も大きく、の頭を優しく撫でる。
まるで子供を撫でるような、そんな優しい感じだった。
「…ぞれじゃ、邪魔しちゃうから行くね。」
「あぁ。ありがとな、。」
手を振ってラルゴの部屋を出ると、次はディストの部屋へと向った。
カンタビレの情報なら、部屋にいるはずだとは思った。
しばらく歩いてディストの部屋に着いた。
コンコンとノックをするが、返事は返ってこない。
そういえば、ライナーがノック無しでディストの部屋に入っていくところを見た気がする。
仕方ないと思いつつ、ドアを開けた。
「お邪魔します…。うわー…。」
相変わらず譜業の道具やら工具やらで埋まっている。
歩けるか…?なんて思いつつ、部屋に入る。
「ディストーいないのー?」
すると、部屋の奥でガチャッと音がした。
は音がした方に向うと、真剣に譜業兵器を作っているディストを発見する。
「あっ、やっと見つけた、ディスト。」
はそう零しながら、ディストに近づく。
ディストも人の気配に気がついたのか、に振り向く。
「おや、ではありませんか。どうしました?」
「あのね…ハイ、バレンタインデーのチョコ。」
は紙袋からチョコを取り出し、ディストに渡す。
ディストは受け取ると、「あ、有難う御座います…。」と本人は驚いているようだった。
「ディスト、大丈夫?」
「な、別に譜業兵器を作っていたら、いつのまにかバレンタインの日になっていたわけではないですからね!」
「そうなんだ…。」
「キィィーー!!違います!!!」
と、はハイハイ、と言って部屋を出て行こうとした。
ふと振り向けば、ディストは嬉しそうな笑みを浮かべていた。
はクスと笑ってその場を出た。
さて、次はアッシュかな。
しばらく歩いてアッシュの部屋の前に着いた。
そして、またノックする。
すると、返って来たのは入れもどうぞでもない言葉だった。
「仕事増やすんじゃねぇーこの屑が!!」
その瞬間部屋の中からドスドスと大きな音が響く。
は心配になってドアノブに手をかけた。
「アッシュ!?」
部屋の中は2人の兵が倒れており、アッシュはカンカンに怒っている。
アッシュはの様子に気がつくと、「か。」と今更気付く。
「アッシュ、何してるの?」
がそう問いかけると、兵達はガバッと起き上がっての傍による。
「「様…お助け下さい…。」」
そこまでハモらなくていいよ、と思いつつ、どうしたの?と聞く。
アッシュは舌打ちして、兵達を睨みつける。
「そいつらが大事な書類を失くしやがったんだ。たく、今日中だったのに…屑共が。」
は溜め息を零して、そういうことね…と呟く。
とうの兵はの後ろで怯えていて、もう泣きそうだった。
さっきの大きな音は殴られて飛ばされた音だろう。
はその場で詠唱を唱え始めた。
「…癒しの光よ、ヒール!」
兵達に治癒術をかけて、はにっこり笑った。
兵達から見れば、は天使のような存在だろう。
「チッ、女に助けられてヘコヘコするな。」
アッシュはまだ怒りが治まらず、舌打ちする。
はアッシュに近付いて、少し溜め息を零す。
「…アッシュ、そんなに怒らないであげて。」
はそう言うが、アッシュは口を閉ざしたまま。
また溜め息をつくと、は紙袋からチョコレートを取り出す。
「はい。今日はバレンタインデーだから。」
はそう言って渡し、アッシュはそれを受け取った。
「…すまないな。」
満更でもなく、はどこかホッとしていた。
クルッと振り向くと、兵達は羨ましいのか見ていた。
アッシュに振り向けば、少し顔を赤くしている。
「それを食べて、少し頭の回転早めると良いよ。」
「それは、俺の頭の回転が止まっているということか?」
アッシュは遠まわしにそう言っているように聞えたらしく、そう問いかけた。
は言葉を間違えたと一瞬後悔する。
「違うよ。とにかく失くしたなら、きっとあるということでしょ?探せば見つかるよ。」
「そうかぁ?そいつらが失くすと本当に消えたようになるんだがな…。」
そう言いつつ、兵達を睨みつける。
相変わらず兵達はビクビクしている。
「例えば、椅子の下とか、カーテンの裏側とか?一番近いところを探したらどうかな?」
の提案にアッシュはそうか…と呟きながら、探していく。
すると、椅子の下に紙切れが見えていた。
「おい、マジか…。」
「えっ、見つかったの!?」
アッシュは黙り込んでいた。
だが、だんだんと込み上げてくるオーラが漂うのが分かった。
「…、ありがとな。お蔭で見つかったぜ。」
「あ、そうなんだ!(あれ、普通だ…)良かったね、アッシュ。」
が笑顔でアッシュに振り向いた時だった。
アッシュはから貰ったチョコを机の上に置き、自身の剣を抜いた。
「…アッシュ?」
「、チョコありがとな。これは、俺に手間をかけたあいつらを葬ってから食べるぜ。」
がちょっと、待ったと言えないスピードでアッシュは斬りかかって行った。
兵達はひぃぃぃ!!と声を上げながら部屋を出て行く。
「待ちやがれ!!!」
「「師団長、お許しを〜!!」」
風のように去っていた彼らの後姿をは見送った。
仕方ないので、はその場を去ることにした。
途中、悲鳴が聞えたような気がしたが、心のどこかで無事を祈った。
その後、は導師の部屋へと行き、アニスとイオンにチョコを渡した。
アニスからも友チョコを貰い嬉しそうには部屋を出た。
そして、教団本部を歩いていると自分の名を呼ぶ声が聞えた。
「ーーー!!」
そう呼ばれ、ガバッと抱きつかれる。
振り向くと、アリエッタがいた。
そういえば、任務から帰ってくるとカンタビレが言っていたことを思い出した。
「お帰り、アリエッタ。」
「ただいま、。」
後から来たライガを撫でると嬉しそうな顔を浮かべていた。
あっ、そうだと零し、は紙袋からチョコを取り出す。
「はい、アリエッタ。バレンタインデーのチョコ。」
笑顔でアリエッタに渡すと、アリエッタの顔は驚きから笑顔に変わっていく。
そして、ありがとうと言って抱きつく。
アリエッタの方が年上なのに身長はの方が上なので、アリエッタはを見上げるようになる。
頭を優しく撫でると、綺麗なピンク色の髪が吸い付くようだった。
数秒して、アリエッタの腕が離れると、アリエッタは悲しい表情へと変わる。
「アリエッタ、今年バレンタインのチョコ…作ってないの…だから…。」
「だから?」
少し顔を俯いていたアリエッタが、顔をバッと上げ笑顔で言った。
「ホワイトデーにあげる…です!」
はその言葉を聞いて、アリエッタに抱きついた。
そして、ありがとうと呟く。
しばらくして、アリエッタの部下が傍に寄ってきた。
敬礼を施し、伝達を告げる。
「アリエッタ様、総長からのお呼び出しです。」
そう告げた兵に、アリエッタは分かりました…と紡ぐ。
兵は再び敬礼をして、本部へと返っていた。
「それじゃ、アリエッタまたね。」
任務から帰ってきたばかりだから報告だろうとは思いつつ、アリエッタにそう言った。
アリエッタは未だに嬉しそうな顔を上げて、バイバイと紡ぐ。
手を振って見送ると、手を振り替えしてくる。
その小さな手がとても可愛らしかった。
アリエッタの姿が見えなくなると、は紙袋の中を確認する。
「次が…最後…。」
そう、シンクにあげるチョコだった。
「確か、演習場だ…。」
カンタビレの情報ならシンクは演習場にいる。
は任務中だったら、時間を開けてからにしようと思いつつ、演習場へと足を進めた。
重たい扉を開け、演習場に入る。
すると、第五師団兵がトレーニングをしていた。
軽く様子を見ながら、目的の人物を探す。
すると、人形相手に戦っているシンクがいた。
は演習場に入ると、シンクに近付いた。
「シンクー!」
ある程度近付くと、彼の名を呼ぶ。
その声に気付いたのか、シンクは振り返った。
「…。」
振り向いたシンクには近付き、邪魔してごめんねと紡ぐ。
シンクはタオルで汗を拭きつつ、何?と尋ねる。
「今日…空いてる?」
いきなり言われた言葉はそれで、シンクは今日の日程を思い出していた。
すると、シンクはボソッと言う。
「…夜なら空いてる。」
おそらく今日は1日トレーニングなのだろう。
はそっか…と呟きながら、笑顔でシンクに言った。
「じゃ、今夜シンクの部屋に行っていい?」
別の方向から聞くと、少し怪しい気もするがの笑顔を見ればそんな気配無い。
その2人の様子を第五師団兵は微笑ましく見ていた。
「別に僕がの部屋に行ってもいいんだけど。」
反論するシンクには首を横に振る。
「ううん。シンクが疲れてると思うから、あたしが行くよ。」
人の心配だけは相変わらずのに、シンクは内心クスと笑うと分かった、と零す。
は笑顔で喜んで、
「じゃ、今夜シンクの部屋に行くね。トレーニング頑張って!!」
手を振り歩き出すにその後姿を見送る。
一応、見えなくなるまでその背中を見ていた。
「な…今日ってバレンタインデーだっけか?」
「そうか…じゃ、師団長と様がその約束か…?」
「やっぱ熱いな…そういえば、第六師団兵が様にチョコ貰ったーとか言っていたぜ。」
「マジかよ!羨ましい…俺も欲しいな…。」
兵達の会話。
後ろから来る気配に気付かずに、手を止めていた時だった。
「様って料理が美味いらしいしな…第六師団にいれば食えるかな…。」
「へぇー美味しいんだ。」
「そりゃ、聞いた話だし、そうだろうな…ってあれ………あはははは。」
唐突に声が変わったなーと振り向くと、手をポキポキと鳴らしている自分の上司がいた。
あはははと超棒読みに笑うが、その顔は引き摺っている。
「雑談しないで、さっさと練習してなよ。」
殴られるかと思ったらその一言だった。
それを言い放ったシンクは自分のいた場所へと戻っていく。
「あ、あれ…殴られなかった…??」
「きっと…様と会ったからじゃないか?」
「そうか…!様、マジで有難う御座います!!」
兵達は殴られなかったことを嬉しく思い、に感謝の言葉を紡いでいた。
シンクは少し聞えた彼らに振り向くと、睨みつける。
兵達はいそいそとトレーニングの続きを始めた。
は演習場を出て、自分の部屋へと向った。
チョコが溶けないように少し早めに走りながら、どこか口元が緩んでいた。
そして夜。
はシンクの部屋へと向った。
しかし、渡すとなると緊張し、部屋の前で少々躊躇ってしまう。
それでも勇気を持ってドアをノックした。
すると、ドアが開かれシンクが出てきた。
「…、入っていいよ。」
「お、お邪魔します…。」
どうも様子がおかしいをシンクは不思議に思った。
部屋に入ると、ベッドが少し乱れているのが分かった。
「…もしかして、寝てた?」
ドアを閉めたシンクにそう尋ねる。
「少しね。でも、仮眠程度だよ。」
そうは言っているが疲れているようだった。
なるべく手短にしようかなとは思った。
「それで…何さ?」
「えっ!…あ、あの……//」
急に来た理由を聞かれたため、戸惑いが起こる。
必要も無いのに、自然にチョコが入っている紙袋を後ろに隠してしまう。
「はぁ…。ソファは書類ですごいからベッドにでも座ってよ。」
「…うん。」
ソファに視線を送ると、書類で散らばっていた。
シンクに誘われ、ベッドに腰を掛けることにした。
不思議と顔が熱くなる。
「それで…本当に何さ?」
シンクに問い詰められた感じになり、はますます顔が赤くなる。
何で赤くなるのか分からず、シンクは疑問符を浮かべるばかり。
そして、は紙袋からチョコレートを取り出し、
「…こ、これ//」
すっとシンクに差し出す。
シンクは受け取ると、開けてもいいの?と尋ねる。
「うん…//」
開けるたびには顔の赤みが増したり、目を閉じたり、時々奇声を上げたりするが気にしない。
ラッピングをほどき、中から出てきたのは箱。
その箱を開くと、チョコレートとやトリュフ、クッキーがあった。
「…チョコレート?」
「きょ、今日は…バ、バレンタインデー…だから…//」
上手く話せず、時々噛んでしまう。
シンクは固まったままチョコを眺めていた。
は不思議になって、シンクの名を呼ぶ。
「シンク…?」
すると、シンクはに振り向き、食べてもいいの?と尋ねてきた。
は再び頷き、シンクはチョコを1つ取り、口の中へと入れる。
トリュフが口の中で溶け、甘く感じる。
「…どう…?」
シンクは黙っていたため、不味いのか上手いのかさえ分からない。
すると、シンクは静かに口を開く。
「…美味しい……。」
とっても小さな声でボソッと呟く。
少し頬が赤いのは気のせいだろうか、仮面の所為で顔が見えないが美味しいと言ったのは間違いない。
「…良かった…。」
は緊張が解け、胸を撫で下ろす。
シンクはベッドのすぐ近くにあるテーブルにチョコを置く。
「他に言うこと無いの?」
急にシンクがそう問う。
は何事か分からず、戸惑ってしまう。
「えっ…何が?」
その瞬間、シンクは溜め息を吐き、の腕を引っ張る。
すると、自然にベッドに倒れ、組み敷かれる体制になる。
「ちょ、シンク…!!?」
見上げると上にシンクがおり、相変わらず仮面で顔が見えない。
は自分の置かれている立場に恥ずかしくなり、先ほどよりも顔を赤くする。
「バレンタインデーってさ、女が男にチョコを上げる行事でしょ。恋人達の愛の誓いの印とか言われてたらしいけど、
はチョコ上げた、それだけで満足なわけ?」
シンクはどうやらチョコを貰っただけでは満足してないようだ。
はただ焦るだけで、自然と涙目になる。
「…えっ、シンク…あの…///」
は心臓音が体中に響くぐらい爆発しており、シンクに聞えるんじゃないかと心配していた。
ただ、こんな状況になったのが初めてなので、多少恐怖感もある。
「…はぁ…。よくあるのって、こういう日に告白する奴がいるんでしょ?」
シンクは何を求めているのかが何となく分かった気がしてきた。
すると、は視線をそらしてシンクに呟く。
「…知ってるくせに…。」
「知ってるから、聞きたいんだけど。」
どうやらシンクが何を求めているのかが分かった。
は顔を真っ赤にしながら、シンクに振り向くと小さい声だがはっきりと紡ぐ。
「…シンクが…、好き…だよ…//」
シンクは満足したのか、少し微笑む。
すると、仮面を外し自分の顔をの顔に近づける。
は自然と目を瞑るようになり、唇に触れるものを感じる。
それは恋人同士がするもので、シンクとにとっては大きいことだが、すでに経験していること。
やがて、唇からその温もりが消えると、目を開ける。
「…僕も、が好き。」
目の前で言われて、恥ずかしい奴はいない。
は目線をずらすと、ぎゅっと握り締めていた手を軽く解き、小さく呟く。
「シンクの、馬鹿…//」
そうは言っているが心の中では嬉しくて、少し口元が緩む。
視線を戻せば、少し赤くなっているシンクがいて、どうにもこうにも恥ずかしい。
その反面嬉しさがあり、本当に幸せだと感じる。
再び重なる唇にお互い熱くなるのを感じながら手を握り合う。
「シンク…?」
すると、シンクの様子がおかしい。
目を開けたり閉じたりと繰り返す。
「シンク、眠いの…?」
「…、おやすみ……。」
「えっ!?」
その瞬間シンクは崩れての上に乗るようになる。
重いと感じつつも、違う意味で恥ずかしい。
「シンク///えっ…、ちょ……。シンク…?」
彼の名を呼べば、もうすぅすぅと寝息を立てている。
しかも顔が近く、呼吸で出す吐息が時々耳に当たり、変な感覚が体中を巡る。
上手くすれば、声だって出てしまう。
このままでいても仕方ないので、は起こさないように必死にその場を抜ける。
何とか抜け出せば、シンクに毛布をかける。
チョコレートは冷蔵庫にしまい、はシンクの傍へと寄る。
その寝顔に優しく微笑み、はシンクの部屋を片付け始めた。
ある程度片付け、はシンクの傍に寄る。
「シンク、おやすみ。」
何故だろう、急に眠気が襲ってくる。
仕事の所為であまり寝ていないのもそうだが、こんなに込み上げる眠気は久しぶりだと思う。
はフラフラしながらも、さっき片付けたソファに身を捧げた。
翌朝、はベッドの上にいた。
目が覚めると、は上半身を起こす。
「…あれ?」
確かソファで寝たいたはずなのに、ベッドにいる。
すると、向こうからこちらに向ってくる人の気配がする。
振り向けば、そこには自分の愛しい人。
「シンク…。」
「おはよ、。」
仮面は付けていなかったが、間違いなくシンク本人だった。
「シンク、あたしを運んだの?」
「まぁね。さすがに寒いだろうし…だから。」
最後の一言はボソッと呟く。
はありがとう、と紡ぐとシンクはのそばに寄る。
ベッドに乗り、そのままの顎に手を添え、無理矢理上を向かせる。
「これでも、数時間一緒に寝てたんだよ?」
「そう、なんだ…///・・・って、えぇ!?」
抵抗しないようにその唇を奪ってしまう。
はキスをする間は大人しくなる。
シンクはそれを知っていたのだ。
「チョコ、ありがと。」
シンクはそうに紡ぐと、は顔を真っ赤にしながらも呟く。
「どういたしまして//」
これが2人のバレンタインデーだった。
その後、はカンタビレと第六師団兵にバレンタインデーはどうだったかと聞かれ、シンクも第五師団兵に頭を抱えたらしい。
赤面しながら逃げていくを見かけたり、何故か怒っているシンクを見たりと教団内は混乱に包まれる。
だが、そんなこんなでも彼等にとって良き思い出となったバレンタインデーに感謝した。
さて、しばらくはこの混乱は続くのだろか。
それはまた別のお話で。
〜fin〜
*****
この作品は『虹色の煌き』の洸歌様が書かれたフリー夢小説でございます。
とても素敵な作品ですが、ここから持ち帰ったりは絶対しないでくださいね。
フリー期間中(期間限定なのかはわかりませんが・・)でしたら洸歌様のサイトから強奪頂くことができますそのそちらから。
洸歌様、転載許可どうもありがとうございました!
