「白龍・・・もう私と貴方の力だけではどうにもならない・・・」
黒い、何もない場所―時の狭間と呼ばれる場所に、一人の少女と少年がいた。
二人は外見はまだ10歳くらいの子供であったが、その身からは不思議な強い気が微かに感じられた。
だが、二人はどこかぐったりとしており、その表情は暗い。
「でも・・・私の神子がいれば・・・」
「無理よ!今までよりも・・・ずっと状況が悪い。黒龍もいない・・・それに肝心の神子もまだ見つかってない・・・」
「・・・神子・・・神子・・・答えて・・・」
「白・龍・・・・」
二人・・いや、二神とも力を失いつつあった。
少年・・・白龍の対が欠けた状態で穢れきった『京』を治めることはもう、無理だった。
穢れに力を奪われ、それによって穢れを浄化できなくなる。増大した穢れは二人をさらに苦しめ力を奪い、穢れが広がる。・・・完璧な悪循環に陥っていた。
白龍の対たる黒龍がいればまだましだったかもしれないが、その彼も行方不明。
肝心の京の町は戦乱の最中で、穢れは増加の一途をたどっているし、頼みの綱たる龍神の神子はいまだに見つかっていない。
ゆえにこうして白龍がずっと神子に呼びかけているのだがそれらしい反応はいまだに得られない。
必死にまだ見ぬ神子へと呼びかける白龍には心が痛むが、すでにタイムリミットが来てしまった。
彼女が本来治める場所は京ではなく『幻想界』と呼ばれる聖獣たちの住まう場所。
幻想界は四神をはじめとする十二神将で十分に維持できるため、白龍と黒龍に力を貸していたに過ぎないのだ。
その幻想界に最近異変が起こっているのである。
それは彼女の力の低下によるもので、今まで幻想界を支えていた気が乱れ、あちらこちらに時空の歪ができてしまっている。
このままではいずれ幻想界が崩壊してしまいかねないし、そうでなくても甚大な被害が出ることは間違いなかった。
いくらなんでも、治める地の被害を拡大させてまで白龍たちに力を貸すことはできなかった。
「ごめんなさい、白龍・・」
これ以上力を貸せなくて・・・役に立てなくてごめんと、彼女は言って『門』を開こうとした。
「どうしたの・・?迷子?」
聞き覚えのないその声に驚いて思わず振り返ると、白龍のいる一角だけ別の世界と空間がつながっていた。
木とは違うものでできた大きな建物があった。
そこには同じような服を着た人たちがたくさんいて少々不気味だった。
白龍の前にたっているのは他の人たちと同じように揃いの服を着た女が一人に男が二人。さきほど声を発したのはこの女のようだ。
一見回りの人たちと同じような三人組みだが、この人たち・・・特にこの女からは清らかな気が感じられた。
周りにいるものを優しく包み込んでくれるような、それでいて力強さを感じる気。
それは普通の人間に出せるものではなかった。
“まさか・・・この人が白龍の・・!?”
「神子・・・私の、神子!」
少女の考えを肯定するかのように言った白龍が残りわずかのその力を使った。
神子を『京』へ連れて行くために、白龍の強い陽の気があたりに満ちる。
それを人事のようにただ傍観していた少女だったが彼女は重大なことを忘れていた。
“!?いけない、引きずられる!!”
門を開いたままだったために、彼女の力と白龍の力が共鳴し合ってしまい、より強く作用した白龍に引きずられてしまったのだ。
気がついて閉じようとしたときにはすでに手遅れで、開いていた門は崩壊し、少女も白龍たち同様時の流れに流されていった・・・