“ここは・・・京?”
流された少女があたりを見渡すと、そこはどこかで見たことのある場所。
先ほどまで、時の狭間で見ていた場所であった。
ずっとあちらから見ていたため今まで一度たりとも彼女がここに踏み入ったことはなかったが、京は見知った場所となっていた。
あたりには人がまったくいなかった。
あるのは人だったもの・・・
「気持ち悪い・・・」
黒くて、ドロドロとした、おどろおどろしい気が満ちている場所。
それは弱りきった少女神には猛毒とかわりなかった。
少しでも神聖な気を探そうと必死にあたりに気をめぐらせるが、ここらいったいにそのようなものは存在していなかった。
逆に力を奪われるばかりで、少女はついにその場に座り込んで動けなくなってしまった。
“陰の気が・・・集まってる・・・?”
しばらくそうしていると、あたりの気に不自然な動きがあることに気がついた。
今まであたり一面に広がっていたそれが、凝縮されて集まっていく。
不思議に思いあたりを見回すと、先ほどまでは確かに屍だっただったものが動き出していた。
しかもそれは少女にどんどん迫ってくる。
「怨霊・・・!?」
見たことはなかったが、そういうものがこの京に存在することはしっていた。
これがいるせいで彼女たちは力を取り戻せないのだから。
あわてて逃げようとするが思うように体が動かない。
自分でも気がつかないうちに『穢れ』が体内に入り込んでしまっていたらしい。
平常時なら何てことない程度の穢れだったが、今の彼女にはそれを祓う力さえ残っていなかった。
さらに入り込んでくる穢れ、近づいてくる怨霊。そのどちらをも防ぐことができず、少女は消滅を覚悟した。
今にも刀が振り下ろされそうで、思わず少女は目を閉じた。
どうせ消えるのなら、すこしでも怖くない方がいい・・・
“・・・・?”
いつまでたっても覚悟していた衝撃が来ないことに、不思議に思って目をそっと開くと、そこには苦しげにうめいている怨霊の姿。
その背には一本の矢がささっていた。
「大丈夫か!?」
そう言って武器を片手に走ってきたのは赤い髪の男だった。
途中、怨霊をバッサバッサと豪快に倒しながら、それでいて怨霊たちに気をとられすぎないですばやく少女のもとにやってきた。
その後ろには同じように(この男よりは劣っているが)向かって来る数人の男たちの姿もあった。
「嬢ちゃん、怪我はないか?」
あたりに気をめぐらせつつも、少女には優しく、笑顔で問いかけたその男からは、微かに清い気があふれ出ていた。
「あたたかい・・・・気・・・・」
トサッ・・・
「おっおい、嬢ちゃん?!」
男の質問にはまったく答えないままあっさりと気を失った少女は、その男の腕に支えられた。
「湛快様。さっさと逃げないと復活しちまいますよ?!」
怨霊を一時的に飛散させることはできても、封じたりすることのできない彼ら。
疲れを知らぬ怨霊にそう何度も復活されてはたまらない。
「わかっている・・・!・・・・熊野へ帰るぞ!」
湛快はそう後ろの男達に言った後、なぞの少女を抱えてその場を離れた。
“あたたかくて・・・気持ちいい”
湛快の気を気に入った少女は、それから丸3日間彼の服をにぎったまま眠り続けたのだった。
ちなみに当然のことながらその間ずっと少女を抱えているはめになった湛快は、少女を振り落としてしまわないように、起こしてしまわないように、と細心の注意を払う必要があり、熊野へつくころにはかなりつかれ果てていたとか・・・