「、龍神の神子が現れたって聞いたかい?」
藤原の家になれきったころ、ヒノエがそういった。
なんでも、白龍の神子が現れて、源氏の軍で怨霊を封じて回っているらしい。
「神子か・・・たぶん神子の近くに白龍もいるよ」
「龍神が、かい?」
今までの文献―もっとも、新しくても100年ほど前だからたいしたものはあまり残ってはいないが―では、龍神が神子と共にいるなんて書かれていなかった。
「うん。今まではここまでやってなかったけれど、今回は神子と一緒だよ。」
まだ弱い為か微かにしか感じられないけれど、他のものよりも強い陽の気。
それが2つ、しかも寄り添うようにかたまってあるのだと、付け足した。
この気は、白龍と、その加護を受ける神子しか持たないものなのだと。
「そうか・・・。、京の都へ行ってみないかい?」
「・・・?どうして?」
唐突に言われた言葉に、は不思議そうな顔を向けた。
今の時期に京へ行くなんて何か大切な用事でもあるのだろうか。
「そのうち神子様方は熊野に来るだろうからね。今のうちに様子でも見ておこうと思ってさ。」
「そっか・・・うん、私も行く!!」
ヒノエから教えてもらった常識。
その中には当然今の京についてもあって。
源氏と平氏が争っていること。
熊野は中立を保っていること。
平氏は怨霊を使っていること。
今のままでは源氏が不利なこと。
そして、熊野水軍の力があれば、その不利な戦況をもひっくり返せるかもしれないということ。
だから、いずれ源氏も平氏も、熊野の力を求めるだろうという事はわかっていた。
そして、そのときの為に正確な現状を把握しておく必要があるということも。
を誘う意図はよくわからなかったけれど、京の都へ行ってみたかったから・・・
なにより、神子に、白龍に会いたかったから。
だから、ヒノエに同行しようと思った。
***
「あれが神子様かい・・?」
「うん。白龍によく似た強い陽の気がするよ。」
木の上で、こそこそと話している怪しい二人組み。
ヒノエとはそこから一人の女性を見つめていた。
いつもは数人の人たちと共に行動しているというのに、今は一人だった。
あわてていたのだろうか、彼女はガラの悪そうな男たちにぶつかってしまい、絡まれていた。
必死に逃げようとしているけれど、腕をしっかりとつかんでいてそれはできずにいた。
助けることもなく、ただ見守っていただけだったヒノエは、急に今までいた木から飛び降りた。
そうして、あっという間に神子を助け出すと、いつもどおり彼女を口説きだした。
「毎回女の人を見つけるとあぁ言ってるけど、楽しいのかなぁ・・?」
は不思議に思いながらも彼を見習って飛び降りた。
なぜなら、こちらに数人の人々が走ってくるのが見えたから。
はこちらに向かって来る彼に小さく微笑んだ。
「久しぶりだね、白龍」
彼はうれしそうに笑っていた。
