「久しぶりだね、白龍・・・」
突然、ヒノエ君みたいに一人の少女が現れて、走ってきた白龍に声をかけた。
なんで木の上にいたのかな、って不思議に思った。
でも、そんなことよりも何で白龍のことを白龍って呼んだのか。
久しぶりってどういうことだろうか。
なんでヒノエくんと一緒にいるのか。
そういうことのほうが気になった。
ただ、白龍がうれしそうに笑って少女に抱きついているのを見た。
そうしたら、私、気づいたんだ。
彼女から、温かくて包み込むようなそんな優しい気があふれてることに。
それがとても心地よくて。
たったそれだけなのに、“彼女は悪い子じゃない”って思った。
「白龍!?」
ヒノエとと白龍以外の人がその白龍の行動に驚きの声を上げた。
自然と集まる視線を気にもせず、白龍はをギュッと抱きしめた。
「よかった・・・」
まるでの存在を確かめるようなその行動。
それは、対が消えてしまったように、彼女もいなくなってしまうのではないかと不安だったから。
自分の力の影響で着てしまったことに対する申し訳なさもあって。
そして、こうして会えたことへの喜び。
たくさんの思いが混ざり合ったものだった。
は何も言わずギュッと抱きしめ返した。
心配することはないんだって、
気にする必要はないんだってことをわからせる為に。
「感動の再会はいいけれど、そろそろ離れてくれるかい?」
やんわりと二人を引き離しながらヒノエが口を挟んだ。
「あの、あなたは・・」
それに続いたのは『朔』だった。
「私はだよ、黒龍の神子」
「「「「!!!?」」」」」
一瞬にしてその場に緊迫した空気が流れた。
なんで彼女が黒龍の神子と知っているのだろうか。
素性のしれない少女への不信感が高まって、神子一行は今にも武器を構えそうだった。
「君はいったい何者だい・・?」
「・・?黄龍とずっと呼ばれていたよ」
なんでこれほど警戒されるのかがわからなくて、は不思議な表情で答えた。
「黄龍だと?!こんな少女が?!」
信じられない、という表情でをにらみつける九朗。
うそをつくな、とついに彼は剣を抜いてしまった。
剣の切っ先を向けられたは驚いた表情をして、九朗を見た。
近くにいた弁慶が、彼をいさめたけれど、逆に怒鳴られただけだった。
「剣を、向けるの・・?私に・・・?」
ゆらりゆらりとその場の気が揺れた。
の優しげな気が、力強い、怒りの気へと変わっていく。
それにあわせて、ゆっくりと周りの気も乱れはじめた。
「・・・!だめ、九朗剣をおさめて!!」
の異変にいち早く気づいた白龍がそういったが、それでも九朗はおさめなかった。
フワッ・・・
「!?」
「私は・・・」
先ほどまでとは明らかに違うその気に、やっと九朗たちも気がついた。
の髪が、風も吹いていないのに、重力に逆らってふわりと浮いた。
同時に、強い力が彼女へと集結していくのを、だれもが感じた。
“やばい!”と、そう思ったときにはもう遅かった。
カッ・・ゴゥ――――
集まっていた気が強い光を発して弾けた。
まるで台風時に外に出ているようなそんな勢い。
九朗はなんとか剣を地に刺して飛ばされぬように力をこめた。
けれど、ずるずると、少しずつ、確実に後ろに下がってしまう。
「!」
ふっ・・・
誰かの声が聞こえた。
そして、今まで体にかかっていた力がふっと消えた。
かたひざをついた状態で周りを見回すと、傍には誰もいなかった。
先ほどまで、隣にいた弁慶も景時も、皆前方にいて、驚いた表情でこちらに駆け寄ってくる。
彼らが何かを言っていた。
けれどそれに答える余裕は九朗にはなかった。
あれほど強い力を感じたのに、他の人たちはもちろん、あたりの花さえその花びらを散らすことがなかった。
なにも、変わっていなかったのだ。
動いたのは、動かされたのは九朗だけだった。
目の前の少女を見ると、彼女は望の隣にいた赤髪の青年に支えられていた。
その姿は、ごく普通の少女と変わらぬもので、一瞬先ほどのことが夢だったのではないかと思った。
けれど、足元にできた引きずられたよな跡が、あれは現実だったのだとおもいしらせた。
「、大丈夫かい?」
怒って力を放出したとおもったら急に倒れそうになった。
あわてて支えると、俺によりかかってやっと立てる状態だった。
もう少し力を発していたら、そのまま気を失っていたんじゃないかと思うくらい、ふらふらになってたんだ。
声をかけると大丈夫だって、いったけど、ぜんぜん大丈夫そうじゃなかった。
ふと、あいつの声が聞こえてそちらを見ると、につっかかって来た奴がいた。
九朗・・だったかな。そいつが呆然とした様子でこちらを見ていた。
ただの子供だと思い込んでいたのに、ああなったのがよほどこたえたのだろう。
周りの奴等が話しかけても何も答えなかった。
“まっ、自業自得だな”
見かけで判断する方が悪いのだ。
勝手に見下して、からあふれる神気にすら気づかない。
この程度なのか、八葉というのは。
これが、自分の仲間だなんて、思いたくなかった。
こんな、を苦しめるような奴が俺と同類だなんて思いたくなかった。
認められない。そんなこと。
八葉(まだ全員そろっていないから5人だが)たちがこちらを見ていたけれど、俺はそれを無視した。
を抱きかかえて立ち上がり、今日の宿へと歩きだした。
後ろでわめいていた気もするけれどそれを相手にする気もおこらなくて。
ただ、まっすぐに宿へと向かった。
この姫神様を休ませる為に。
