「ケーキっておいしいの・・?」






京版ケーキ 前編








いつもどおりに起きて、着替えて、朝食を食べていた。


毎日毎日繰り返されてきたそれ。
自然と、席順も決まってきていた。


誰から言い出したわけでもない。
けれど、なんとなく気心の知れた人の近くが安心するものだから。
1人、2人・・と席を埋めていくと、やっぱりいつもと同じ場所に座っている。
それが当たり前となっていた。



そして、そこで、たいてい近くの数人ずつ、和やかに話を始める。

全員が一つの話題に集中することもあるが、そういう時はどうしても口論になりがちである。
けれど、朝食のときくらいはのんびりしたい、という思いが誰にでもある。
そのため必然的に近くの数人と、あるいは何も話さず黙々と食べる、のどちらかになるのだ。



そんな、いつもと同じ朝。
それは、一人の少女の声で変わった。




「ケーキっておいしいの?」
「「「はぁ?」」」




だれもがピタリと動きを止めて、不思議そうな顔で、ヒノエと白龍の間を見た。




「なんでいきなりケーキなの・・?」
「っていうか、ケーキ知ってるのか!?」




現代組は、から『ケーキ』という単語が出てきたことに驚きを隠せない。




「ちょっと落ち着いてください。」
「その『けえき』とやらはいったい何なんだ!?」




何のことかもわからず、置いてきぼりをくらった現地組は、
軽いパニック状態の現代組をなんとかおさえ、それが何かを問いかけた。




「えっと、ケーキっていうのはお菓子なんです。
生クリームがシフォンケーキに塗ってあって、イチゴとかフルーツがトッピングしてあるんです。」


「生くりいむ・・・?しふおんけえき・・?」
「「望美(先輩)・・・・」」




あまりにもひどい説明・・・というかさらに疑問点を増やしてしまっているその答えに、
譲と将臣はあきれるしかなかった。




「譲殿、それはいったいどういうものなんですか?」




望美には聞くだけ無駄だと理解した現地組。
それならば、と、譲に説明を求めた。




「ケーキっていうのはですね、・・・・・・・・・・・・
と、こういう食べ物なんです。」




わかりやすく、それでいて手短にまとめた譲に、望美と将臣はおもわず拍手をした。




「なるほど・・・」

「で、それっておいしいの?」




ケーキが何かをやっとこさ理解して、ようやくの質問へと戻る。


ケーキはおいしいのか、否か。




「そりゃ〜当然」
「おいしいよ!!」




思いっきり断言した二人に、譲はその人の好みにもよりますけど、とつけたした。




は、何で急にそんな事を言ったんだい?」
「白虎が、ケーキっておいしいらしいぞっていってたから、本当なのかなって思って・・・」



おいしいのなら食べてみたかったのだと、は答えた。




「けえきは、京でもつくれるものなのでしょうか・・?」




食べたいというならば、作ることはできぬのかと敦盛は譲に問いかけるが、彼はゆっくり首を左右に振った。




「残念ですけど・・・京では材料もそろいませんし、オーブン・・・焼く道具もありませんからね・・」




つくるのは無理ではないだろうかと、譲が言うとはショボーンとしてしまった。




「ケーキ・・・食べれないね・・・」



う゛・・・・・


見ていた神子+八葉はあまりにも悲しそうな表情に、自分が悪いわけでもないのに心が痛む。




「神子・・・にケーキあげれない・・・?」




白龍が目を潤ませて神子・・望美にそう言い出した。




「白龍・・・・。・・・・・・・譲君、なんとかならない?」




白龍のおねだりに、今度は譲に助けを求めた。


望美にはめっぽう弱い譲は、思わず『できる』とうなずいてしまいそうになった。
けれど、問題はそれこそ山のようにあって、たやすく解決などできそうにない。




「皆の知恵をじぼれば、『けえき』は無理かもしれませんが、それに近いものをつくれないでしょうか。」



どうにもならなくなった譲を見かねて、弁慶はそう助け舟を出した。




「そうね、これだけ人がいるのだし、それらしいものは作れるかもしれないわね。」






こうして、いつもののんびりとした朝食は一変。



『ケーキっぽいもの作り』の作戦会議へとなったのだった。