「すげー・・・」
「本当にできてしまいましたね・・・」
「すっご〜い!!ケーキそっくりだよ!!」








京版ケーキ 後編








一つのテーブルをぐるりと囲んで、それぞれに感嘆の声をあげた。


テーブルの上にのっているのは、先ほどまで皆で必死に作っていたもの、ケーキ。
見た目は、あちらで売っていたケーキとさほどかわらず、売り物とされていても違和感がないくらいのできばえだった。


それに、本物のケーキを見たことのある三人はひときわ驚いた。


たしかにそれっぽいものをつくろうとはしていたし、そのためにものすごく苦労もした。
けれど、これほどまでにケーキに近いものが作れるとは思っていなかった。
せいぜいぺちゃんこの生地に、この時代の食べ物をトッピングしたりする程度のものだろうと考えていた。
けれど、実際にできたのはどこから見てもケーキで、現代から持ってきたのではないかと疑いたくもなるほどだった。



もっとも、数分前までの戦場のようなあわただしさを思い出せば、確かにこの京で作ったものだということがわかるのだが。








****







作戦会議を終えそれぞれが自分の仕事に取り掛かったのは、の一言がでてから約3時間後のことだった。


実際にケーキを知っているのは三人しかおらず、しかも『作る』という点で役にたつのは譲しかいなかった。
将臣も望美も、その見た目や、味についてはすばらしい記憶力を発揮しケーキ作りに貢献したが、
作り方に関してはまったく頼りにならなかった。
そのため、譲を中心にケーキ作りは進んだ。



材料等は主にヒノエ・九朗たちが中心になってかき集めた。
コネと権力をフル活用して、なんとか必要最低限のものを買うことができた。

その中で、特に熊野の烏の力は絶大で、みるみるうちにこの時代では珍しいはずの食材が集まっていくのにはだれもが驚いた。


ヒノエとがそれを誇らしげにしているのを、朔や望美たちはほほえましそうに見ていた。



けれども、どうしても集めることのできない材料もやはりあった。



それは、弁慶や朔たちが中心になって、知恵を振り絞り、なんとか他のもので代用したりした。


器具等に関しては景時の独壇場で、その器用な手先で次々と作り上げていった。


調理場では譲が指揮をとり、料理が得意な者達で着々と作っていった。





日もすっかり暮れたころ、ケーキはやっと完成した。


普通ではありえないほどの時間をかけ、何とか作り上げたそれに、誰もが喜びの声を上げた。




「ケーキ、おいしそうだね!」
「皆で作ったんですもの、きっと特別おいしいでしょうね」




にこにこと、本当にうれしそうに話すに朔も笑顔で答えた。



ぐぅぅぅ〜・・・・




どこからかそんな音が聞こえた。




「「「景時(さん)(兄上)・・・・」」」




音の出所・・・景時を、皆はあきれた顔で見た。
まだ白龍とかなら許せる。が、大の大人が腹をすかせて鳴らすのはかなりかっこ悪い。




「ごめんって〜・・・お昼、結局食べてないし、目の前においしそうなけえきがあるんだよ?」
「お昼を食べていないのは兄上だけではありません!まったく恥ずかしいんだから・・・」




情けなく言い訳を述べる景時を、朔はすっぱり切り捨てた。
彼女に怒られて、なお情けなくなった景時に、すでに兄の威厳はまったくない。




「・・ぷ・・」
「くくっ・・」




その様子に望美が、が、思わず噴出した。
それにつられて皆も笑いをこらえられなくなり、肩が震えだす。




「「アハハッハハハハハ・・・」」
「おなか、おなか痛い〜腹筋が〜」
「景時おかしすぎる〜」
「いくらなんでもこれは・・」
「立場完璧逆転してるっ・・・」




大爆笑に、景時も朔も最初こそ反論していたが、ついには一緒に笑い出した。





数分後、やっと落ち着いた梶原邸では、今度は緊迫した空気が流れていた。




「「「・・・・・」」」



すっ・・・



「・・・ていっ!」



ザクッ・・



「・・・ケーキ、切れたよ・・?」




構えた包丁で、さくっさくっとケーキを切り分けた望美は笑顔でそういった。




「おまっ・・それ明らかに大きさ違いすぎるだろ!?」




切り分けられたケーキをみて真っ先に突っ込んだのはやっぱり将臣だった。
望美が切ったケーキはどう贔屓目に見ても12等分されているとはいえなかった。
明らかに大きいもの、小さいものの差が激しすぎる。




「やはり望美に任せたのは間違いだったな。」
「そうですねぇ・・・これはちょっと・・・」




絶対綺麗に切り分けて見せると豪語したので任せてみたが、やはり無難に朔か譲が切った方がよかったようだ。
大きさだけでなく、ものによってはケーキが崩れかけてしまっている。




「力技で切ったってかんじだね・・」
「いいの、たべれればぜんぜん問題なし!」




そういいきると、それぞれの前においてあった皿を取ってケーキをのせていく。




「一番大きいのはのね。」




にっこりと笑って皿をおいた望美に逆らえる人はいなかった。




「・・いいの・・?」




おずおずと聞くに、だっての為に作ったんだから、と皆が答えた。


もともとが食べたいといっていたものだし、彼女に食べさせる為に作り始めたのだから、一番大きいのはのものだろう。




「ありがとう!」




うれしそうにわらったにどういたしまして、と返してから、望美は次の人の分を乗せる。




「二番目に大きいのは朔で、三番目は私で、四番目は・・・」




次々とそうやってのせていって、一番小さいものは九朗のもので、一番崩れているものは将臣のものになった。




「「おいっ!!」」


「だってレディファーストでしょ?
それに、譲くんはいっぱいがんばってくれたし、
ヒノエくんが材料を殆ど集めてくれたし、
景時さんの道具がなかったら作れなかったし、
弁慶さんやリズ先生の知恵がなかったらどうにもならなかったし、
敦盛くんや白龍もがんばってくれたよ。
将臣くんぜんぜん働いてないし、九朗さんも材料集めちょっと手伝ってくれただけでしょ?」



当然の結果だという望美に納得がいかない!と不満顔の二人だったが、
いつまでも文句を言っていてもしょうがないので結局我慢した。




「それじゃぁ気を取り直して」
「「「「いただきます」」」」



パクッ・・



「「「「おいしい!(うまい)」」」」
「こんなの初めて食べたよ〜」
「とても、おいしい・・」
「うむ。」




初めて食べたケーキに、久々のケーキに、それぞれ感動した。





みんなで作ったケーキ。


それは本物のケーキではなかったけれど、
たくさんの人の力が合わさってできたもので。
なにより、自分が協力して作ったそれは、とても、とてもおいしかった。

どんな高級なケーキよりも、ずっと、ずっとすばらしいケーキ。

もしかしたらケーキとは呼べないかもしれない。
けれど、それでも皆で作ったものだから。
やっぱりそれはケーキなのだ。

他の誰が違うといっても、にとっては世界で最高のケーキだった。







その日、結局かなり遅くまで騒ぎまくった一同は、翌日の朝そろって寝坊して、あわただしく梶原邸をでることとなる。




「望美〜おきなさ〜い!」
「神子、おきて」
「兄さん!起きろ!」
「将臣殿・・起きてください」
「「あと10分・・・」」
「朔殿、譲くん急いで起こしてください!」
「刻限まであと一刻もない・・」
「急がないとこの後の予定が!!」
「うわ〜頼朝様に怒られる〜」





「ねぇねぇ、ヒノエ」
「なんだい?
「昨日はね、クリスマスっていうのだったんだよ」
「くりすます・・とはいったい何なんだい・・?」



あわただしい神子側を傍観しつつ、ヒノエとはのんびりと話をしていた。




「あのね、大好きな人と一緒にケーキとかご馳走を食べて騒ぐんだよ。」
「それはまた面白いお祭りだね」

「でしょ?昨日はケーキ食べて、ご飯食べて、いっぱーい騒いだでしょ?だからクリスマスなんだよ!!」
「そうだね・・。にとって昨日がクリスマスなら、俺にとってもクリスマス、かな」




大好きな人と一緒にケーキやご馳走を食べて大騒ぎ。
それはまさしく昨日の出来事だったから。
だから彼らにとってはクリスマス。


本当のクリスマスとは違う、彼らなりのクリスマス。




「「「「ヒノエ(くん)、、のんびり話ししてないで(するな)!!」」」」




二人がのんびりしているのに気がついて一喝。
それに肩をすくめて、二人は顔を見合わせた。


それからにっこり笑って叫んだ。




「「今行く!!」」




大好きな人達のもとへ、大好きな人と一緒に。

今日も、明日も、あさっても、ずっとずっと一緒にいたいね。