ザンッ・・・



「はぁ・・・はぁ・・・ちょっと、多すぎ・・・」



援軍を呼んで来い、と劉備を追い出したはいいがあまりの敵兵の多さに思わず顔をしかめる。
しかも、先ほどの名乗りで続々と人が集まってきてしまっている。
そのうち、敵将もやってくるだろう。


それなのに、の体は満身創痍といっても過言ではないくらいな状態で、疲れきった体は思ったように動いてくれない。


いつもなら楽にできることが、できない。
の大きな得物は使い慣れた武器なのに、まるで自分のものではないかのように重たくのしかかる。
一振り一振りが、とてもつらい。
しかも、先ほどの矢傷が思っていたよりも深く、血がなかなか止まらない。



“やばいかもしれないなぁ・・・”



失血によりかすれていく景色に、そのまま気を失いそうになる。
そんな自身の体を叱咤して、敵を倒していた。


目がかすむ、でも敵は待ってはくれない。

逆にチャンスとばかりに斬りかかってくる。


槍をいなし、斬りつける。

噴出した血を頭から浴びる。

すでに慣れきってしまったそれも、全身に浴びると気持ち悪くなる。



いつもは血糊をかぶらないように気をつけているが、今はそんな余裕もない。




「ずいぶんふらふらしているな。」




今までとは違う、威厳のある声が聞こえた。
同時に、夏侯惇将軍!という雑兵の声。




“また厄介な相手が出てきちゃったよ・・・”




魏でも1・2を争う猛将の出現に思わず逃げ出したくなった。
万全な状態であったとしても、彼にはかなわないのだから。




「ここに劉備がいると聞いて来てみたが・・・いるのはその娘、か・・」
「お父様じゃなくて悪かったわね!・・・ここより先には通さないよ?」



は自分の胸中を見抜かれないように、必死に強がっていた。


彼の出現に、思わず震える体。
それに気づかれないように口先だけのハッタリをかまして、自身の得物を握りしめる。




「ふん・・・。お前を倒して先に進むまでだ」




互いに武器を構えて対峙するさまはに、そこらの雑兵が混じれるはずもなく、いつのまにかぽっかりと空間ができていた。


緊迫した空気に、周りの声が、音が、遠くに感じた。
誰かが誰かを斬った音。
斬られて苦しんでいる声。
全てがまるで別世界の出来事のようだった。



一時間?三十分?
そうして彼と対峙していると、時間がものすごく長く感じた。
実際だったら一瞬だっただろうその時を、二人は向き合ったまま動かず、にらみ合っていた。


そのとき、どこか、遠くのほうで馬のいななきが聞こえた。



ガッ・・ギリギリギリ・・・



それを合図に二人は武器を交えた。
力押しのこの勝負、やはり夏侯惇に分があった。
しばらくこらえていたがすぐにそうもしていられなくなって、あっさり弾き返されてしまった。


は舌打ちを一度して、今度はフェイントをおりまぜながら斬りつける。
フェイントをまぜるだけでなく、相手の力をうまく利用したその攻撃に、今度は夏侯惇が舌打つ。



けれど、何度目かに刀を交えたとき、はこらえきれなくなってしまった。
向けられた刃を受け流すことも、とどめておくこともできなかった。



ザクッ・・・



「―――――っ!!」




ドサッ・・・



肩から胸の辺りまでバッサリとできたその傷口からは、おびただしい量の血が流れ出していた。


それは、地面にジワリ、ジワリとしみこんでその場を紅く染め上げた。