「はは・・・やっぱり、負けちゃった・・・」
予想通りの結果に、思わず苦笑いがこぼれる。
けれど、それも傷の痛みからかすぐにゆがめられた。
「なぜ、負けるとわかっていて逃げなかった?」
目の前でを見下ろしながら問いかけたのは先ほどまで死闘を繰り広げていた相手、夏侯惇だった。
眼帯で、片目しか見えないその瞳には困惑の色が浮かんでいる。
「なぜ、この場に残っていた?」
には彼の問いかけの意味がわからなかった。
いや、意味、というよりそれをなぜ聞くのかがわからないといった方が正しい。
敵である彼が、なぜこんなことを問うのだろうか。
戦場で、このような話をしている余裕などないはずなのに、なぜ、をさっさと殺して進まないのか。
たくさんの疑問が浮かぶが、それを問いかけることなどできるはずもなく、は答えを返した。
「お父様の馬が、いなくなってしまったから・・お父様には援軍を頼んだのよ。」
「死ぬと、わかっていて残ったのか。」
「なんのこと・・「この状況で、敵の真っ只中に兵を送るほどの余裕はお前たちにはない。
総大将が残っているならなんとか救おうとするだろうが、それ以外なら見捨てられるのがおちだ。・・・それが、たとえお前だったとしても。」
「実際に剣を交えてわかった。お前はこうなることを予想していただろう。相手の動きを読んで、その力を利用して攻撃するお前が、気づかないわけがない。」
の言葉をさえぎって言われたそれには何も言い返せなかった。それが、全て真実だから。
もし、援軍を送ってくれていたのなら、もうとっくに合流してもおかしくはない。
けれど、ここには味方は誰一人としていない。
それは、援軍部隊がこちらに向かっていないということの何よりの証拠で。
それは、が見捨てられたということを表していた。
そして、それをはわかっていた。
劉備が戻れば、彼がどれだけ求めようと先へ進ませようとすることに。
逆に何とかしてここから離そうと説得するだろうことに。
そして、それを受け入れ前に進むだろうことも。
全て、わかっていた。
幼い外見とは裏腹に、今までがいた立場からか、生まれつきか、へたに賢くなってしまった彼女には。
それを望もうが、望まなかろうが、わかってしまうのだ。
以前はそれがうれしかった。
少しでも父の役に立てたから。
けれどたまに悲しくもなる。
わかるがゆえに苦しむこともあるのだから。
だれも、気がついてくれないから・・・
は一度目を閉じた。
全ての覚悟を決める為に。
そして、ゆっくりと開いたその瞳には、今まで異常の力強さがやどる。
「・・・そのとおり・・・といって欲しいの?私は全てわかっていて、お父様の為に死ぬ覚悟だと。
貴方の言ったことが全て真実だったとして、それを知って貴方はどうする気?」
「・・・・」
「同情でもするの?見捨てられた馬鹿な子供だと。」
夏侯惇は何も言わなかった。
ただ、じっとこちらを見て、の言葉を聴いている。
そんな彼に顔を向けて、彼女はこう続けた。
「あなたができることなんて、たった一つしかないんじゃないの?」
