この話は死にネタです。
主人公が死にますので、苦手な方はご遠慮ください。
読んでからの苦情は一切聞きませんので引き返すなら今のうちです。
死にネタが駄目な人は、主人公が生きているバージョンの話がありますのでそちらをご覧ください。
死にネタ大丈夫って方はこのままスクロールしてください。
ザンッ・・・
まっすぐに、の心臓につき立てられた剣。
夏侯惇はそれを引き抜くと、浴びた返り血をぬぐうこともせずに歩きだした。
後ろは振り返らない。
ただ、自分の願いをかなえるために、険しく長い道を歩き続ける。
永久に続くその道を。
誰よりも強くあり続け、いつかこの場で散りゆくために。
だから彼は立ち止まらない。
ずっと、ずっと進むこと。
それが、彼の選んだ道。
それが、彼女の歩んだ道。
戦場に一輪の花が散った。
その花咲かせることなくつぼみのままで。
けれどそれは、戦場を紅く染め上げて。
一人の男に覚悟を。
一人の男に命を。
そして、たくさんの人に希望を与えた。
“お父様、今までありがとう”
「・・・?」
追っ手から逃れる為にひたすら進んでいた劉備のもとに、一陣の風が吹いた。
それは、こんな場所には不釣合いなほど澄んでいて、優しく包み込んでくれるような、それでいて守ってくれるような力強いもの。
それにのって見捨てざるをえなかった愛娘の声が聞こえた気がした。
“今までありがとう、か・・・”
は本当に手のかからない子供だった。
たいていのことは自分でこなしてしまっていて、わがままを言うことは少なかった。
大人びた子だと思って、それ以上深く考えようとはしなかった。
だから、いつしかそれに甘えてしまった。
いつからだろう。
彼女がわがままを言わなくなったのは。
彼女が、泣き言を言わなくなったのは。
彼女は本当は甘えたかったのではないだろうか。
年相応な言動を、したかったのではないだろうか。
周りが求めるから、いつしか無理をして大人であろうとしたのではないだろうか。
何も知らず、知ろうともせず、ここまできてしまった。
彼女の求めたものは、劉備にはわからない。
もう二度と、聞くことはできないのだから。
「すまない・・・駄目な父親で・・・」
「劉備様・・?どうかなさいましたか?」
近くにいた兵が、急に立ち止まってしまった劉備に心配そうな表情を向けて声をかけてきた。
ふと周りを見回せば同じようにこちらを見ているものが何人かいた。
「いや・・・なんでもない・・」
安心させるように微笑を浮かべてそういうと、不思議そうな顔をしつつも彼らは歩き出した。
“今までありがとう。さようなら、”
旅立ってしまった娘に言葉をのこし、劉備もその場を後にした。
もう振り返らない。立ち止まらない。
自分の道を進み続ける。
それが、自分を守ってくれた彼女のためにできることだから。
後悔はしてないの。
だって一番大切なもの守れたから。
でもね、ちょっとだけ寂しいなって思っちゃう。
辛いこと、悲しいこといっぱいあったけど、お父様がいて、お母様がいて、阿斗がいて。
関羽叔父様がいて、張飛叔父様がいて、趙雲がいて。
たくさんの人たちに囲まれて過ごした日々は確かに楽しかったから。
だから、もう会えないって寂しいなって思ったの。
会いたいなって、お話したいなって思ったの。
だけど、ぜったい会いに来ちゃ駄目だよ?
私は寂しいけど、皆はこっちにきたら駄目。
それなら私は我慢するから。
我慢することは慣れてるもの。
だから、皆はこっちにこないでね。
