「あ〜雨が降ってきちゃったよ・・・」
洗濯物が乾かない〜と嘆く景時の言葉につられて外を見た。
「あっホントだ・・・さっきまで降ってなかったよね?」
「えぇ。今降りだしたみたい・・」
そうして外をじっとみていると、雨はだんだん強さを増していった。
ザーッと強い雨の音。
それ以外に何も聞こえない。
雨が振り込んでくるか、こないか、その瀬戸際に望美は立っていた。
「先輩、そんなところにいると濡れてしまいますよ」
どれくらいたったころだろうか、そう言って譲がやってきた。
縁側から外を見ていた望美を部屋の中まで連れ戻す。
その直後、先ほどまで彼女がいたあたりもびしょぬれになっていく。
「もう少しいたら濡れてしまっていましたね。」
「そうですね〜。譲君、ありがとう。」
おかげで濡れずにすんだよ、と礼を言うと、譲はぱっと紅くなり、顔をそらして、もごもごとコレくらいいいですよ・・といった。
それをほほえましく見ている一同の中で、白龍だけが浮かない顔をしていた。
「白龍、どうしたの?」
不思議に思ってそう問いかけると、“泣いている”と答えが返ってくる。
「が、悲しんでいる。」
「が・・・?そういえばどこにいるんだ?」
あたりを見回して、この場にいないことに気づいた将臣が聞くが、誰も答えられなかった。
「白龍、がどこにいるか分かる?」
気を感じることができる彼にそう問えば、分かると返ってくる。
「・・・教えられない・・・は、神子が来ることを望んでいないから・・・」
表情をゆがませて、そういった白龍に一同は驚きを隠せなかった。
いったい彼女に何が起こっているのだろうか・・?
「いったいどういうことだ!?」
九朗がそう聞くが、白龍はなかなか口を開かない。
「白龍、黙っていてはわかりませんよ。はいったいどうしたのです?」
弁慶が口調を強めて問うても、彼は何も言わなかった。
・・・いえなかったのだ。
彼自身にも詳しいことは分からなかった。
ただ、が悲しんでいるのだということと、彼女の心に天が引きづられ、雨を降らせているのだということだけ。
彼女に何があったのか、それは白龍にも分からないことなのだ。
「私にも分からない・・・だけど神子たちがいってはいけない。そう思う。」
「私たちがいったら駄目なのか?」
「・・・うん・・今は近づかない方がいい・・」
下手に近づけば彼女の怒りを買うことになりかねないと告げると、皆はいっせいに黙り込んでしまた。
を怒らせると怖いのは皆知っている。
特に九朗はその身をもって体験しているので、一瞬ぴたりと動きを止めたほどだ。
「は今どこにいる・・?近づかなくても居場所だけは知っておいたほうがいい。」
「裏庭の端にいるよ。」
「裏庭って・・・この雨の中で外にいるの?!」
ザッ・・
思わずそう叫んだ望美の前を、さっと何かが横切った。
「ヒノエ!!」
誰かがそう声をかけたことによって、先ほどの影がヒノエだったことを知る。
ずっと黙っていたヒノエが、飛び出していったのだ。
行き先はのところだろう。
そこしか、ない。
誰もその後を追おうとはしなかった。
してはいけない気がしたから。
のことはヒノエに任せるべきだ、と誰もが感じていた。
自分たちが行ったとしても、それはよい結果にはつながらないだろうと、分かっていたから。
お願い、ヒノエ君。を頼んだよ・・・?
そんな望美の思いが、みんなの祈りが、薄暗いその空へ飲み込まれていった。
何もできない私を許してください。
何も知ることのできないわたしを罰してください。
いつも傍にあったというのに、何も気づくことができませんでした。
彼女が泣いているというのに、私はどうすることもできません。
誰にもいえず、一人で泣いている彼女を、助けることができません。
ただただ彼女が落ち着くように、祈ることしかできません。
彼に全てを押し付けて、私たちはこうして待っていることしかできないんです。
どうか私たちに力をください。
彼女を、皆を守れる力を。
そしてどうか彼女がいつもの彼女に戻れるように祈らせてください。
罪深い私たちに、彼女を待ち続けさせてください。