「そういえば、明日はアレだよね〜」
「えっ・・?アレって何なの、望美」
「アレ・・・?」
私の気持ち、オレの思い
たまには休暇も必要だろうと、珍しく怨霊退治へと出かけないことになったたちは、それぞれに好きなことをして過ごしていた。
こんなときだから、と望美・朔・は三人で話し込んでいた。
いつもは何かと周りにいる八葉たちを全て追い払って、女三人での何気ない会話を楽しんでいたのだ。
そんなときにふと望美はあることを思い出したのである。
今日は2月13日。
現代では乙女の重大イベントとされていたバレンタインの前日だったのだ。
「あのね、むこうではさ、バレンタインっていって女性が好きな男性にチョコ・・・えーっと甘いお菓子とか、手作りのものとかをあげるんだよ。」
「好きな男性に贈り物をするのね?なんで女性からなのかしら・・?」
「さぁ・・・。ただ、男性は3月14日にホワイトデーっていうのがあって、その日に女性にお礼をするんだよ。」
詳しく説明できないんだけど・・・と続ける望美に、二人は大体分かったから大丈夫だと告げた。
「望美の世界では不思議なことをするんだね。」
「どうしても告白できない人って多いから、このときに勇気をだして思いをつげる人も多くって。
女の子の最重要イベントっていってもおかしくないくらいなんだよ。」
そういう望美はいつもより輝いていて、とても楽しそうだった。
「ふふ・・望美も誰かに贈り物をしたの・・?」
「えっ・?!私はお父さんと将臣君と譲君にあげてたかなぁ・・あっ友達と交換もしてたよ。
バレンタインは、好きな人に贈る本命チョコと、お世話になった人にあげる義理チョコがあるんだよ。」
本命チョコはあげたことないけどね、と苦笑交じりで望美は言った。
「ふーん・・じゃぁ今回は誰にあげるの?」
「えっ?!」
は何気なく言った言葉だったのだが、望美がそれに過剰に反応した。
「そうね・・・望美なら将臣殿か、九朗殿あたりじゃないかしら。本命ちょこを贈るのは。」
「えぇっ?!」
そうでしょう?と目を輝かせて朔がいうと、望美は顔を真っ赤にしてうろたえた。
「な・さ・朔!?なんでわか・・あっ・・!」
なんでわかったのか、と言いかけた望美はあわてて口を押さえたがもう遅い。
朔はやっぱりね、といって微笑んでいて、は将臣と九朗が好きなんだね?とにこやかに言う。
尼僧となったとはいえ、やっぱり女性の朔はそういう恋の話がすきだし、はで多少の興味があって。
望美はその後しばらく質問攻めにさせられたのだった。
***
「で、本題にはいるよ?!」
疲れきった望美は半ば叫ぶような声で二人を止めた。
あれやこれやをしっかり聞き出した朔とは満足そうな表情で同意した。
これ以上無理に聞き出そうとして彼女を怒らせるのはよくないと、二人とも思ったのである。
「八葉の皆にお世話になってるじゃない?だからお礼になにかプレゼント・・贈り物をしようかなって思ったんだけど」
「そうね・・・ちょうど今日はお休みだから準備もできるわね。」
「ねぇねぇ、それだったら皆には内緒にしておこうよ!明日びっくりさせよう?」
今はお昼を幾分か過ぎたところで、時間的にも余裕がある。
三人でゆっくり話すためだと男衆は屋敷から追い出してあるから彼らに悟られることもないだろう。
だからこそ、内緒にしておく方が楽しいだろうというに望美も朔も同意した。
「そうだね。思いっきり皆をびっくりさせちゃおう!」
「問題は何を贈るのかってことよね。皆が喜んでくれるようなものって何がいいのかしら」
大体の好みがわかるものはいい。
だが、一部の人の好みは三人にはよくわからなかった。
「今から聞いてたら不自然だよねー・・」
前々から少しずつ聞いていくならまだおかしくはないが、いきなり何が好きですか?とか問いかけたら怪しいだろう。
あまりに不自然な行動をとると、現代組の将臣、譲に悟られる危険がある。
誰にも知られたくない三人にはどうしても極秘裏にことを終えなければならないのだ。
第一、屋敷にいない八葉たちを捕まえるのは至難の業だろう。
それこそ京中に散り散りになっているのだろうから。
「そうね・・・望美は将臣殿と九朗殿と譲殿の好みは大体把握しているでしょう?」
「え、うん。まぁ一応・・」
幼馴染と気になっている人たちだし・・・とほんのり紅くなりながら望美はいった。
「はヒノエ殿と白龍ならわかるかしら?」
「?うん。」
ヒノエとは熊野でずっと一緒だったし、白龍とも長い付き合いだから、とは言う。
「私は兄上なら大体わかるわ。」
「「??」」
いきなり誰の好みがわかるか確認しだした朔を不思議そうにみていた二人。
いったい朔は何が言いたいのだろうか。
「全員で九人もいると、やっぱり好みってかなり変わってくると思うの。そうすると、皆同じものだとどうしても難しいと思うのよ。」
食べ物であっても、白龍は甘いものがよくて、将臣は比較的辛いものを好むでしょう?という朔。
それを聞くと、あぁなるほどなぁ。と納得できてしまう。
確かに九人もいれば好みが正反対な人同士もいるだろうから、同じものでは厳しいだろう。
「それで、それぞれが把握している人の分は各自が用意するというのではどうかしら、と思ったのだけれど。」
それでは駄目かしら?という朔に二人はその方がいい、と答えた。
「そうだね、やっぱり少しでもよくわかってる人が用意したほうが喜んでくれるだろうし。」
「うん。だけど・・・弁慶と敦盛とリズ先生はどうするの?」
なかなかの秘密主義で、だれも好みがわからない三人はどうするのかとが問う。
それに対し、それは朔が何とか準備するといった。
「え?でも朔大丈夫なの?」
「えぇ。望美はただでさえ三人分も用意しなければいけないでしょう?私は兄上の分だけだから比較的楽だもの。」
「でもそれだったら私がもう一人分考えるよ?そうすればちょうど三人ずつになるし」
その方が平等だから、とがいいはったため、最終的に彼女が敦盛の分を用意することになった。
「それじゃぁがんばって準備して、みんなを精一杯びっくりさせよう!!」
その望美の言葉を合図に、それぞれ準備に取り掛かったのだった。
