バンッ・・!



「「「ハッピーバレンタイン!!」」」






私の気持ち、オレの思い









ババーンッ!!という効果音がつきそうなくらいの勢いで三人は声を張り上げた。



「なっ・・・?!お前たち、いったい何のつもりだ!!」



突然現れた三人に男性陣は驚きを隠せなかった。
それもそのはず、今いるのは男性陣が雑魚寝をしている部屋で、彼女たちが普段来るようなところではない。
しかも、このような早朝に乗り込んできて大声で意味不明の言葉を声高に発するのだ。
中には先ほどまで寝こけていたものもいて、とても眠そうにしている。
彼女らの登場により、無理やりおきざるを得なかったのだ。



「いったいどうしたんですか、こんな時間に。」



弁慶が心底不思議そうな顔で問いかけた。
この時間、いつもだったら朔はともかくと望美は寝ていることの方が多いのだ。
今日のように起きていることなんてほとんどないに等しい。




「だって今日はバレンタインデーだもん!」



にこにことうれしそうに言うに、将臣と譲は納得した。
冒頭の言葉でもうすうす感づいてはいたが、驚きのあまり確信できるほどにはいたらなかったのである。



「なるほどなぁ・・今日は2月14日だったのか」
「兄さん・・・でもだからといってこんな時間に来る必要あったんですか?」



前半は日付感覚すらなかっただろう兄への呆れ。
後半は、バレンタインデーだから、というだけでは納得しきれない部分の説明を求める言葉を発した。



「だって、たまには皆をびっくりさせて見たかったからね」
「えぇ。思ったとおり、とても驚いてくれてうれしいわ」



思惑通りにことがはこび、心底うれしそうに話す彼女たちに、すでに誰も文句は言えなかった。
たとえ、彼女たちにたたき起こされたとしても、この顔を見ればそんなことたいした問題ではなくなっていた。
先ほどまで不機嫌だったものたちの顔も、少しずつにこやかになっていく。




「えーっと・・・はい、ヒノエ。」



トコトコとヒノエの前まで歩いてきたは、持っていた3つの箱を見比べてそのうちの一つ・・ヒノエへのものを彼に差し出した。



「これはいったい何なんだい?。」



そもそもバレンタインデートは何ぞや、と思っている京組み。
そこにいきなりはい、どうぞ。と差し出されてもどうすればよいのかわからない。

素直に受け取ってしまってよいのか、そうではないのか・・・

どうするべきかとバレンタインをしっている将臣と譲の方をみれば、彼らはちゃっかり望美からプレゼントを受け取っていた。



「お、サンキュ!」
「あ、ありがとうございます、先輩・・」



平然と受け取る将臣、照れる譲。
あまりに対照的な二人だったが、とりあえず普通に受け取ってもよいのだと学んだ京組み。
それぞれに差し出されたものを受け取った。



「えっと、ものを選んだのはそれぞれ渡した人だけど、一応三人からのプレゼントってことです」
「へぇ〜じゃぁ俺のは朔が選んでくれたんだね〜。」
「一応兄妹ですので。」



大切な妹が選んでくれたとあって上機嫌な景時だったが、彼女の冷たい反応に情けない声を出す。





「へぇ・・よく覚えてたね、。」



もらった箱を早速開けたヒノエが感嘆の声を上げた。
中に入っていたのは確かに自分の好きなものだったのだ。
そして、には熊野でそれをたった一回だけ教えたことがあるだけ。
しかも、それは普段の会話に何気なく出てきたもので、ほとんどつぶやいた、というのに近いものだった。
ずいぶん前のそんな言葉を覚えていてくれたことに驚いた。
そして、同時にとてもうれしかった。



「ありがとな、。」



照れくさくって小さな声になってしまったそれは、周りの声にまぎれてかき消されてしまってもおかしくなかった。
だけど、確かに彼女が微笑んだから。
には届いていたんだろう、オレの声も、オレの気持ちも。



“やっぱりお前にはかなわないね・・”



いつもは振り回すほうのオレだけど。
お前にだけはガラにもなく振り回されっぱなしで。
それがどうしようもなく情けなく思えてくる時もある。

立場とか、無駄にある誇りとか。
そういのが気にならないっていったら嘘だけど。

だけど、にたいしてだけなら・・
そんなオレでもいいと思えるんだ。

どんなに周りからみて情けなくったって関係ない。
お前といると、大切なもの、見つけられそうなんだ。
熊野よりも、もっともっと大切なもの。
いつか、オレにもできる。そう思えるんだ。






***




「そうそう、ホワイトデー・・3月14日は期待してますからね!」
「「「はぁ・・?」」」
「ゲッ・・・」



にこやかに告げた望美に将臣はものすごくいやそうな顔を、京組みは不思議そうな顔をした。



「あのね、ホワイトデーは3倍返しなんだって!」
「とっても楽しみにしてますからね、兄上」



満面の笑みでいう彼女たちに、やっと意味を理解したものたちはサーッと顔を青くする。
妹に期待されて、いつもなら大喜びするというのに今は逆にそれが恐ろしく思える。
彼女たちはプレゼントを渡した後なんと言っていたであろうか。
『三人からの』というところを変に強調していなかっただろうか。



「も、もしかしてこれは・・・」
「一人ずつにそれぞれ」
「三倍返しってことでしょうね・・・」




彼女たちにもらったものは、やはりかなりよいもので。
それの三倍×三人分となると・・・
考えれば考えるほど恐ろしくおもえてくる。
しかし、もらってしまった手前何も文句はいえないのだ。


どんどん憂鬱になってくるが、3月14日までの時間は刻々と迫っていく。

1ヶ月。
長いようで短いその期間で、彼女たちを満足させる何かを贈るのはなかなかに骨がおれる。
しかも9人もいるのだからそれぞれ贈るものがかぶらないように注意しなければならない。



「「「「はぁ・・・・・」」」」



とんだものをもらってしまった・・・と思ったのは一人、二人ではないはずである。