「ごめんなさい・・・」
敵として、彼女たちの前に立ちふさがった私。
望美はどうして、と問うたけれど、仕方が無いことなの。
私の場所は、そっちではなかったのだから・・・
戦場で、私たちはただ向き合って、見詰め合っていた。
周りでは、一人、また一人とその命を消していく。
一人、また一人、罪を背負っていく。
「殿、それは敵でございます!!」
いつまでたっても切りかからない私に、平家の誰かがそう叫ぶ。
えぇもちろん。
そんなこと、あなたに言われなくたって分かっているの。
そんな言葉が出てきそうだったけれど、それを発することは出来なかった。
彼女たちは敵。
そう認識しているはずなのに。
そう決意したはずなのに。
心の奥底で、私はまだあの場所を求めていたのだろうか。
あの陽だまりを、私は望んでいたのだろうか。
「どうしてと戦わなくてはいけないの・・?どうして分かり合えないの?!」
今にも泣きそうな表情で、必死に訴える望美。
戦場が、どんな場所だなんていうことは、彼女も分かっているだろうに。
それでも、やっぱり納得できないのだろう。
心優しい彼女だから、本当は戦場に立つべきではないのだ。
怨霊を助ける為と、彼女はここに来るけれど。
本当はこんな血なまぐさいところにきてはいけない人なんだ。
「私は平家のもの・・・たとえあなた方と戦うことになったとしても、私はこの道を進みます!!」
剣を抜き、構える私。
それをどこか人事のように捕らえていた。
ごめんなさい望美。
私も本当はあなたと戦いたくなんてないの。
できることなら、こんな風に戦場ではなくて。
和議の場にて解決したい。
だけど・・・だけど・・
源氏がそれを望まぬのに、どうして和議がなせるのでしょうか。
あなたがどれだけ望もうと、結局頼朝と清盛様が和議を望まねばどうにもならないのだから・・・
源氏の神子とあがめられるあなたであっても。
還内府と呼ばれる将臣であっても。
出来ることなんて本当に小さなことでしかないのだから。
「かかってこないのなら、こちらからいかせていただきます!」
グッと足に力をこめて、強く地面を蹴る。
一瞬で、望美の前に行くと、剣を振り下ろした。
キンッ・・・
響いたのは、人を斬った鈍い音ではなくて。
金属同士がぶつかり合う高い音だった。
「望美、敵の前でぼけっとしているな!」
「九朗さん・・」
彼女を助けたのは九朗だった。
さすがに総大将を任されるだけのことはあり、とっさの判断は見事なものだった。
剣を受け止めて、私の攻撃から望美をまもっただけではなく・・
彼女や、迷っていた仲間たちに戦う決意を促した。
情に厚い九朗が、私に剣をむけたのだ。
他のものも、迷ってなどいられないと思うのだろう。
望美も、先ほどまで揺らいでいた瞳に、決意の炎をともらせた。
「戦いたくなんてない・・だけど、皆を守るために、私はあなたと戦います!!」
剣を抜き、切りかかってくる彼女。
やっと戦う覚悟を決めた望美は、もう戸惑ったりなんてしない。
優しくて、強い人だから。
大切な人を守るためには、怖くても、苦しくても、その剣を振るい続ける。
たとえ、それがかつての友だったとしても・・・・・・
ごめんなさい、望美。
あなたはきっとこれからも辛い思いをするでしょう。
私だけでなく、将臣も敵だと知ったなら・・・還内府だと知ったなら、あなたはもっと傷つくことになるでしょう。
苦しくて、胸が張り裂けそうになったとき。
あなたの側にいられない。
あなたを支えてあげられない。
いつか交わした約束は、どうやら守れそうにありません。
ごめんね・・・・
「ずっとずっと親友だよ。もしも望美が苦しいときは、私が相談にのる。深みに沈んでしまわないように、私が支えるからね」
「うん!!私もが辛いとき、助けるからね!」
「「約束だよ」」
遙か遠い地で交わされた約束は、もう守られない・・・・・
