「ヒノエなんてだいっきらい!!」
出会いがしらにそう叫ばれて、オレは思わず放心してしまった。








ずっとお前にはかなわない







・・?!いったい急にどうしたの?」




朔ちゃんが声をかけるけれど、は何も答えずにパタパタと軽い音をたてて走り去ってしまった。
いったい何がなんだかわからなかった。
敦盛に何かを怒らせるようなことをしたのか聞かれたけれど、まったく思い当たる節がなかった。


昨日まではごく普通の態度だった。
だけど今朝になって急にあんな風に言ったということは、やっぱり昨日何かあったと考えるのが妥当だろう。
よく考えてみては?と弁慶にいわれて昨日の一連の行動を思い出してみる。
(こいつに言われたってのがかなり癪だったけど、それが正論だったからしかたなくな。)


けれど、何か特別なことは何もなかった。
いつもとかわらない、平凡な時間を過ごしただけで、彼女を怒らせるようなことは何もしていない。



・・・はずである。
将臣が何か悪いことしたのでもばれたんじゃないのか?といってきたのがやけに気になる。
悪いこと、とは思っていないが、一般的にあまりよろしくないようなことは多々やってしまっている。
それは熊野の為に必要なことであることがほとんどで、仕方がないことではあるが、それでも悪いことといわれればそうなのかもしれない。


まさかこれがいけなかったのか・・?!
いや、だがはオレがやっていることをずっと知っていたはずだ。
知っていたけれど、今まで彼女が怒ったことはなかった。
それをとがめることもなかったし、逆にオレの後をついてきたり、手伝ってくれたりすることさえあった。
いくらなんでもそんなに急に意見が変わるだろうか。



「ヒノエくんの女性関係に怒ってるのかもね〜」



どことなく楽しげに言う望美におもわずギクリとした。



「そうねぇ。ヒノエ殿の女性関係はかなりよろしくないですものね。」
「いい加減に嫌気が差してきたのかもしれませんねぇ」
「お前人のこといえないだろ!」



弁慶の方がオレよりもひどい。
情報を聞き出すだけ聞き出したらあとはポイッと捨ててしまう。
それに泣いた女がいったいどれだけいることか。
オレはまぁ・・・あれよりはひどくないね。絶対に。



「ここで考えていても浮かばないのなら直接に聞きに言ってみればいいだろうが。」



九朗は至極簡単なことではないかという風に言ってきた。
簡単に言ってはくれるが、それで解決するなら誰も苦労しないだろ?
というか九朗は人事だとかなり積極的な行動を指図してくるが、実際自分がそうなったときはめちゃくちゃ消極的じゃねぇかよ。
いつまでもうじうじ閉じこもるのがオチだね。



「そうだねぇー。ちゃんだから、話聞いて謝れば許してくれるよ。
・・たぶん



景時まで九朗に同意しやがった。
というか小さくたぶんとかいうなよ。
ってさり気にリズ先生も頷いてるし・・・



「はぁ・・・のとこ行ってくる・・」



このままここにいても解決しないのは事実だから、オレはしかたなく九朗の意見にしたがったんだ。







****





を見つけて、近づこうとしたらはまた逃げようとした。
だから急いで走って、の腕をつかんだんだ。
そうすると、意外とあっさり立ち止まってくれた。



、いったい何なんだい?いきなりあんなこと言われてもわけが分からないんだけど」



オレがそう問いかけると、は手をギュッと握り締めて複雑な表情をした。



「わかん・・ないんだね・・・」
「ごめん・・だけど心あたりが何もないんだぜ?何に対して怒ってるんだ?」
「だって・・・だって・・」



うつむいて肩を震わせる
オレがわからないから泣いているんだろうか。
だけど、本当に心当たりがなかったんだ。
相手に下手なごまかしはきかないから、正直に何が原因か聞くしかなかった。



「・・・ふっ・・うっ・・」
・・・・」

「・・く、くくくっ・・アハハ・・」
・・?おい、どうしたんだ?」


様子があまりにもおかしすぎて、オレはの顔をバッと覗き込んだ。


「えっ・・?」


笑ってる・・・?しかも必死に笑いをこらえているじゃないか。


「おい、?!いったいどういうことだい?」



さっきまでの会話に笑いをこらえるような部分はなかったはずだ。
怒るとか泣くとかならわかるが、笑うとはいったいどういうことだ。




「だって、今日はエイプリールフールなんだもん!!」



ぱっと上を向いて笑ったにオレはあっけに取られてしまった。





「えいぷりーるふーる・・?」



なんとか出せたのはそんな言葉だけだった。
聞き覚えのない単語にオレはますます意味がわからなくなる。



「あのね、今日一日だけは嘘をついても許されるの!」



それはもううれしそうに笑うに、オレは何もいえなかった。
ということはあれは・・



「もちろん嫌いっていうのは嘘だよ。たまにはヒノエ驚かしてみたいなって思って、皆に協力してもらったんだよ」



ね〜とがオレの後方へと笑いかけると、そこには神子姫たちが勢ぞろいしていた。


・・・・完璧にだまされた。
まさかあいつらまで一緒になっていたとは・・


彼等はいかにもたくらみが成功して愉快だーというような表情をしていて、ごく一部だけは申し訳なさそうな表情をしていた。
けれどそんな者もどことなく笑っているように見えるのは気のせいではないはずだ。



「たまにはだまされてみるのもいいでしょ?」



そう不敵に笑ったに、オレは珍しく勝てる気がしなかった。
たぶん、にはかなわないんだろうって思うんだ。



いつもなら絶対こんな風にだまされたりなんてしない。
きっと一部のやつ等の挙動不審さに気づいて、何かがあるとは感じ取るだろう。
そうでなくても、あいつ等の気配に気づけたはずなのだ。
・・・いつもなら。



だけど、今日は周りを気にしている余裕なんてまったくなかった。
いいように踊らされて、だまされた。


悔しいけど、だましたのがだったから。
だから、まぁいいか。と思えるんだぜ?




きっとオレはお前にはかなわない。


これからも、ずっと、ずっと・・・・