僕らの可愛いサンタクロース


「さぁ行くよ、アリエッタ!」
「う、うんっ!」


白いファーがたっぷり付いた赤いワンピースを着た少女たちが、廊下に立っていた。
暗闇の中であかりもつけず、でんっと仁王立ちするアニスの背には、いつも背負っているトクナガの姿はない。
かわりに白い袋が背負われていた。
そのアニスの隣に同じく縫いぐるみ代わりに白い袋を握り締めたアリエッタが立っていた。
二人は声を掛け合うと、一つ目の場所へと向かおうとした。

そーっと、そーっと
寝ている皆を起こさないように気配を殺して、音を立てないように進むアニス。
けれどその後ろに続く影はない。


「まって、アニスー」

小さな声で呼び止められて後ろを振り返ったアニスは、アリエッタが最初の位置から大して動いていないことに気がついた。
彼女がズリッ、ズリッと音を立てて引きずっているのは大切な白い袋。

「ちょ、アリエッタなにやってんの!?」
「だって持てないんだもん・・・・」

アニスのように背負うことができなくて、引きずって歩こうとするアリエッタ。
けれどその歩みはものすごく遅い。
なにより結構音が響いてしまっている。

「あーもー貸して!あたしがそれも持つから!」

しかたなくアリエッタの袋の中身と自身の袋の中身を、大きな白い袋に詰め込んで背負った。
(う、重い・・・・)

急激に増した重さにアニスは顔をしかめる。
予想以上にアリエッタの袋の中身が重かったのだ。
背負って一歩を踏み出すが、よろよろとよろけてしまう。
けれど一度持つといってしまったアニスはもうその荷物を投げ出すことはできなかった。
それは彼女のプライドに反するものだから

ふっ・・・

荷物とひたすら格闘していると、突然肩にかかる重さが少なくなった。
何事かとおもい顔だけを後ろに向けると、アリエッタが袋を支えるように持っていた。
そのおかげで荷物の重量は分散され、幾分か軽くなる。

「アリエッタもちゃんとやる・・です。」

にこっと笑って行こう?と声をかけるアリエッタに、アニスも思わず笑みがこぼれた。

「それじゃ、ちゃちゃっと配っちゃおー」
「おー」










***




「抜き足、差し足、忍びあ・・・」
「こんばんわ、僕のかわいいサンタさん」

カチッ

「はうあっ!な、なんでイオン様起きてらっしゃるんですかー?!」

こそこそと進入したはずの部屋の主はスイッチから手を放しながらにっこりと微笑んでいた。
彼の衣服は寝巻きではなく、ごく普通の日中着ているのと同じで、彼がずっと起きていたのだということを物語っていた。

「ていうかいまどき抜き足差し足って・・・古くさいよね」
「し、シンクまでいるですか・・?!」

いやみを言いながら物陰からすっと出てきたのはシンクで、いるはずのない人の姿にアリエッタが驚愕の声を上げた。
シンクの部屋はこの隣。
なぜにイオンの部屋にいたのだろうか。

「アニスとアリエッタがプレゼントを持ってきてくださると思って、シンクと一緒に待っていたんですよ」
「そういうこと。それにしてもこっそりやりたいならもっと静かにしなよね。がたごと物音立てすぎ。
あれじゃぁ寝てたって目が覚めちゃうよ。」
「うぐっ・・・」

もともと物音や気配に敏感な人ばかりがいるこの場所では、小さな音でも気づかれる元となる。
確かにそれを考えるとうるさかったかなとアニスも思えてしまうので何も言い返せなかった。

「まぁまぁ、二人が頑張ってくれていたのはよくわかりましたし、それくらいにしておいてあげましょうよ。」
「イオン様・・・!」
「さっすがイオン様!性悪シンクとは違ってわかってるー」
「なっ・・!」

ジーンと感動した様子でイオンを見つめるアリエッタにシンクは眉をひそめる。

「そうだよね〜、やっぱイオン様の素晴らしさがこういうとこにも滲み出てるっていうかさぁ〜」
「イオン様優しい・・・です」

不機嫌なシンクに気づかずにイオンを褒めまくるアニスとアリエッタ。
さすがにかわいそうだと思ったのかイオンが声をかけるが二人にはまったく届かない。

「あ、あの二人とも、そのくらいに・・・」
「あったかいイオン様・・好きです」

照れたように微笑みながら告げたアリエッタの言葉に、その場の空気がピシッと凍った。
・・彼から流れ出てくる寒々しいオーラがものすごく怖い。


「あ、アリエッタ・・・?えっと、冗談ってことは・・・」
「?ホントのこと言っちゃダメ?アリエッタイオン様のこと好きだもん。」
さすがにシンクの様子に気が付いたアニスがなんとか機嫌を戻そうとするのだが、アリエッタにその想いは伝わらなかった。
あっさりと望みとは正反対の言葉を返されて、アニスはガクッとうなだれた。
それと同時にさらに増したシンクのオーラにアニスは彼を直視することさえ出来なくなった。
もう、恐ろしすぎて見たくもない。

「へぇ・・アリエッタはイオンが好きなんだ?あ、そう。じゃぁボクはもう寝るから。」

口元だけに笑みを浮かべてそう言って部屋を出て行ってしまうシンク。
声音も普段と変わらなかった。
けれど目だけは冷たいまなざしで・・・逆に怖かった。
こんなことなら、怒り狂ってくれたほうがマシだ。
その方がおさめようもある。
けれど彼は何も聞かず出て行ってしまった。
こうなってしまえばアニスとイオンがなんと言っても無駄だった。


「〜っ!!アリエッター!!あんたなんてこというのよ!」
「なんでダメなの?アリエッタホントのこと言っただけなのにシンク怒ってた・・・」

さすがにシンクの様子に気が付いたアリエッタは心底不思議そうな様子で問いかけてくる。
それにアニスは思わず頭を抱えたくなった。

(なんでこの子はこんなにも相手の気持ちに疎いの!?)

シンクが嫉妬しているだなんてあそこまであからさまであれば誰にだって分かりそうなものではないか。
それなのにまったく気づかないアリエッタ。
いくらなんでも鈍すぎる。

「アリエッタ、自分の気持ちに正直なのはいいことです。でも、その時の状況に応じていっていいことと悪いことがあるのも分かりますよね?」
「はい。あれは言ってはいけないときですか・・?」
「えぇ。少なくともシンクの前で言っていい言葉ではありませんよ。
アリエッタも自分の前でシンクがアニスを好きだといってるのを聞いたらいい気分にはならないでしょう?」

分かりやすいたとえをまじえていうイオン。
そのたとえが気に食わなかったのかアニスが「そんなの天地がひっくり返ってもありえない!!」と叫んでいたがあえてイオンはスルーした。
今はアニスよりもアリエッタにシンクのことを分かってもらうほうが先だ。

「はい・・。アリエッタ、悪いことしちゃった・・です。」

シュンと落ち込むアリッタ。
もしも自分がシンクの立場だったら、と考えてようやくあの言葉の危険性を感じたらしい。
どうしよう、とあわてるアリエッタを落ち着かせながらイオンとアニスは同時に扉を指差した。

「「シンクにちゃんと説明してきなよ/ましょう?」」

半ば追い出されるように部屋を出たアリエッタは、けれどどうすればいいのか分からず戸惑いながらシンクの部屋の前に立った。




シンクの部屋へ

イオンの部屋に残る